「日本沈没」初回 小栗旬熱演の舞台裏 差し込む太陽に込めた希望 チーフ演出「受ける顔を見たくなる」

[ 2021年10月10日 22:19 ]

日曜劇場「日本沈没―希望のひと―」第1話。検証報告会議の結論に異を唱える天海(小栗旬)(C)TBS
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 俳優の小栗旬(38)が主演を務めるTBS日曜劇場「日本沈没―希望のひと―」(日曜後9・00)が10日、25分拡大でスタートした。初回のクライマックスは、田所博士(香川照之)が唱える関東沈没説に根拠がないと結論が出た会議の最後に、主人公の環境省官僚・天海(小栗)が一石を投じるシーン。チーフ演出の平野俊一監督(49)に撮影の舞台裏を聞いた。

 <※以下、ネタバレ有>

 小栗が2010年10月期「獣医ドリトル」以来11年ぶりに同局の看板枠・日曜劇場に主演。1973年に刊行された小松左京による不朽の同名名作SF小説を原作に、当時も扱われた題材「環境問題」を2021年バージョンとして鮮明に描く。原作に大きくアレンジを加え、舞台は2023年の東京。国家の危機に瀕してなお、一筋の希望の光を見いだそうとひた走る究極の人間ドラマがオリジナルのキャラクター&ストーリーとして展開される。

 脚本は「華麗なる一族」「獣医ドリトル」「LEADERS リーダーズ」などの橋本裕志氏。撮影は今年春に終了した。チーフ演出は「インハンド」「ノーサイド・ゲーム」「TOKYO MER~走る緊急救命室~」などの平野監督が務める。

 第1話は2023年、東京。内閣総理大臣・東山栄一(仲村トオル)は世界環境会議に出席し、地球物理学の権威・世良徹教授(國村隼)とCO2排出量を抑える国家的プロジェクト「COMS<コムス>」のさらなる推進を高らかに表明した。東山総理が“未来の日本”を見据え、各省庁の優秀な若手官僚たちを集めた“日本未来推進会議”も発足。環境省の天海啓示(小栗)、経産省の常盤紘一(松山ケンイチ)もメンバーに選ばれた。その折、インターネット上に関東沈没へ警鐘を鳴らす元東大教授の地震学者・田所雄介博士(香川)の記事が載る。この記事が原因となり、国会議事堂周辺にデモ隊が出る騒ぎに。天海は事態収束のため、田所と対面。しかし、田所は天海の話に一切耳を傾けず「近い将来、伊豆沖で島が沈没する。その島の沈没は、私が恐れてきた関東沈没の前兆になる」という不気味な予言を放ち、天海は翻弄される…という展開。

 週刊誌「サンデー毎朝」の記者・椎名実梨(杏)が、田所博士の研究を支援し、環境ビジネス詐欺の疑いがある企業「Dプランズ」と環境省の癒着疑惑をスクープ。天海は事態収束のため、今度はCOMS圧入管付近の地層を調べ、関東沈没説の根拠をつぶすことを提案。世良教授、田所博士とともに深海調査艇「わだつみ6500」に乗り、深度3000メートルまで潜った。

 海上保安庁から届いたデータによると、関東沈没説の根拠は一切ないことが証明された。「関東沈没に関する検証報告」会議。田所博士は「ここは真実をねじ曲げる場なのか。真実にたどり着くことを避けているのは、君たちの方だ!話にならん!」と激昂。天海の目頭が熱くなってくる。記者会見を控えるため、会議は終了。ブラインドが開くと、外光が差し込み、天海の顔に照らされる。「これでいいんですか!」――。

 「田所博士は納得していません。(立ち上がり)このままだと、いくら会見で否定しても、田所博士はまた関東沈没説の正当性を訴え続けますよ。せめて、この間、中断した調査の続きをしてから、結論を出しても遅くないんじゃありませんか」

 常盤も止めに入ったが、天海は「よくないよ、紘一。そもそもオレは、関東沈没否定ありきで進む今日の会議に違和感がある。確かに関東沈没はこの国にとって不都合極まりない話だ!だからといって、その議論にフタをしていいわけがない!」と語気を強めた。

 世良教授は「天海くん。田所くんの不正疑惑を非難していた君が、一体どうした。君の言っていることは私への侮辱であり、この会議への冒涜だよ。残念だね。君がこれまで積み上げてきたものが、すべて台無し」。それでも天海は突き動かされた。「そんなことはどうだっていい!私は今、日本の未来の話をしているんです」。そこへ静岡県伊豆沖の日之島(劇中の架空の島)が水没し始めたというニュース速報映像が飛び込む。記者会見は中止。首相官邸に呼ばれた世良教授に、天海は「待ってください。1つ、お伝えしたいことがあります。伊豆沖で日之島が沈む。田所博士は、そう予言していました。予言は当たったんです。そしてそれが、恐れていた関東沈没の前兆になると。日本の未来は我々に懸かっているんです」――。

 いみじくも、今月3日に行われた制作発表で、國村と香川が語った今作の“核心”を象徴するシーンとなった。

 國村「脚本家の橋本さんの言葉を借りれば(以前、画期的な業績を挙げた後輩の田所に地位を奪われ、屈辱を味わった経験がある世良は)モーツァルトと対立したサリエリ。世良さんは学界の権威になっていますが、実は田所さんの才能に嫉妬している。逆に言うと、非常に認めている。関東沈没説に対しても、実は(心の)どこかで『ホントはあるかも』と思っているんですが(政財界から意見を求められる)政治的な立場もあります。学者と政治的な立場の二足のわらじを履かねばならぬ人の葛藤というんですかね、それは非常に世良さん役を通して、実感として感じることができるようになりました」

 香川「國村さんが図らずも興味深いことをおっしゃってくださって。本当はそれに気づいていても、立場上言えないという方が世の中にいっぱいいるはず。さっき(首相役の)仲村さんも『撮影が終わってから、現実の政治家の方々を見ると、とても優しい眼差しで見るようになりました。きっといろいろな事情があるんだろうな、言えないことがたくさんあるんだろうな』と。つまり、立場がある人は言えないんですよ。田所は立場がなく、失うものがないので、ギャンギャンギャンギャン言うわけですよね。その中、このドラマの一番の幹というのは、主人公の天海が環境省の官僚という立場にもかかわらず、正しい方向のことを言っていく。天海だけが一言言うんだな、切り裂いていくんだな、と。それが、このドラマの存在理由だと思いました」

 ブラインドが開き、外光が差し込む演出は、台本のト書きにはなく、平野監督のアイデア。「会議がお開きの雰囲気になったところで、天海が異を唱える大事なシーン。何か1つ、アクセントが欲しいと思いました。音楽を使う手もありますが、深海の映像を見ていて会議室が暗かったので。ここから天海がサブタイトルにもある“希望のひと”になっていってほしい、これが希望の始まりであってほしいという思いを差し込む光に込めました。会議が丸く収まってしまうことと不都合極まりない話にフタをしないこと、どちらが希望なのかと。天海の顔を照らす太陽の光が、天海を後押しするエネルギーにもなればと思いました」と意図を明かした。

 台本上、天海の口調はスマートな感じにも読めたが「野心家な一面がある天海も、疑念が湧き始め、抑えられなくなった思いを第1話の最後にドンと吐き出してほしかったので、小栗さんには強い打ち出し方をお願いしました」。そして今作は、時に力強く、時に繊細な小栗の“受けの芝居”に魅了される。「香川さんもおっしゃっていますが、すべてを受け止める天海は非常にストレスフルな役。第1話のラストもそうですが、そんな天海を演じる小栗さんの“受けている顔”を見ていたくなるんです。台詞がなくても、小栗さんの表情だけで、こちらの感情が揺さぶられます」と絶賛してやまない。

 会議室の空間演出も工夫した。「対立する世良教授と田所博士が対峙して座っていそうですが、あくまでも検証報告会。海底調査をした天海、国土交通省の安藤(高橋努)、世良教授、田所博士が報告する側なので、4人は横並びに。会議に動きをつけたかったので、発表形式にして会議室のセンターにスペースをつくって試してみました。田所博士がプロジェクタースクリーンの前に出ていけたり、想定以上の画(絵)になったと思います。第1話の会議室のシーンは、まだ試行錯誤しながらの撮影。それぞれの芝居の温度感など、キャストの皆さんとディスカッションを重ねて、迷いを消していきました」と昨年末に行われた収録を振り返った。

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