乙武洋匡氏 トランスジェンダー選手初出場で巻き起こった議論

[ 2021年8月4日 05:30 ]

トランスジェンダー選手として初めて五輪に出場を果たした重量挙げのハバード
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 【乙武洋匡 東京五輪 七転八起(10)】重量挙げ女子87キロ超級に出場したローレル・ハバード選手が3回の試技すべて失敗に終わり、記録なしで五輪の舞台から去った。彼女は最後の試技を終えると、観客に手を振って一礼し、退場した。

 記録なしに終わった選手がここまで注目されるのは、彼女がトランスジェンダーとして初めてオリンピック出場を果たした選手となったからだ。出生時は男性として育てられたハバードは20代でニュージーランドのジュニア記録を樹立するなど、男子105キロ超級で活躍。その後、自身の性別違和を覚えてホルモン投与を開始。2017年からは女性として世界選手権に出場し、昨年のワールドカップでは金メダルに輝いた。

 性別移行した選手がオリンピック出場資格を得たことで、大きな議論が巻き起こった。IOCは男性ホルモンのテストステロン値が12カ月間にわたって一定以下であれば、トランスジェンダーであっても女子の競技に参加できることをガイドラインで定めている。しかし、現時点でのテストステロン値が基準以下でも、男性として第2次性徴を迎えた人が女性アスリートとして大会に出場することは有利に働くという指摘もあり、議論は白熱。ハバードと同じ階級の女子選手は、彼女の出場について「悪い冗談のようなもの」とまで発言している。

 トランスジェンダーとして初めてJOC理事に就任した杉山文野氏はこう語る。

 「トランス女性はあらゆる場で偏見の目を向けられたり、排除されたりと理不尽な扱いを受けている。そうした不公平さには目を向けず、彼女たちに有利に働くと思われる場面だけ“それはダメ”と言われてしまう。広い視野で見たとき、それが本当に公平だと言えるのでしょうか」

 東京五輪後、IOCはトランスジェンダー選手の出場に関するガイドラインを改定するという。「競技における公平性」と「誰も排除することのない包摂性」。相いれない両者の間でどういった判断が下されるのか注目が集まる。

 ◇乙武 洋匡(おとたけ・ひろただ)1976年(昭51)4月6日生まれ、東京都出身の45歳。「先天性四肢切断」の障がいで幼少時から電動車椅子で生活。早大在学中の98年に「五体不満足」を発表。卒業後はスポーツライターとして活躍した。

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