大河「麒麟がくる」 堺正章の変幻自在の妙味

[ 2020年11月23日 11:45 ]

22日放送のNHK大河ドラマ「麒麟がくる」で、囲碁を打ちながら語り合う正親町天皇(坂東玉三郎)と東庵(堺正章)(C)NHK
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 【牧 元一の孤人焦点】22日放送のNHK大河ドラマ「麒麟がくる」で、医師の東庵(堺正章)が物語の重要な役割を担った。

 正親町天皇(坂東玉三郎)の胸の内を聞き出した場面。今月1日の放送で正親町天皇が初登場した時、いきなり2人で囲碁に興じていて唐突感もあったが、実は天皇が幼少時に病弱で東庵の治療を受け、すごろくで遊んだり雑談したりしていた間柄だった。

 織田信長(染谷将太)が延暦寺と対立する状況。東庵が「いかがなされますか?」と問うと、天皇は「信長を助けてやろうぞ。信長はこの館の屋根を直してくれた。長年、覚恕(延暦寺で権力を握る弟)が見て見ぬふりをしていたこの屋根を」と答える。

 ここで浮かび上がるのは、天皇が弟の覚恕(春風亭小朝)に対して抱いている否定的な感情。天皇は「覚恕は貧しい公家たちに金子(きんす)を貸し、それと引き換えに領地を奪ってきた。公家たちの苦しみは、いかばかりか」と弟の罪を切々と訴えた上で「これは朕(ちん)と弟の戦いやも知れぬ」と東庵に強い思いを打ち明ける。

 話す相手が幼少時から親しんできた人物だからこそ明かした本音。この場面によって信長と延暦寺の対立構造が立体的になり、物語の深みが増した。

 東庵は、史実とは関係のないオリジナルキャラクター。演出の一色隆司氏は「大河で史実がどう描かれるかを期待している人がいることは認識している。しかし、それだけでは『歴史秘話ヒストリア』(NHKの歴史情報番組)のようになる。オリジナルキャラクターを配置することで、登場人物たちの心に何が起きているのかを分かりやすく伝えることができ、見ている人たちに、より感情移入してもらうことができる」と話す。

 役者の組み合わせも重要だ。正親町天皇を演じる玉三郎は人間国宝。共演者によってはバランスが悪くなりそうだが、東庵を演じる堺は長年にわたって音楽やドラマの世界で活躍してきた重鎮。絶妙な空気感をつくり出すに至った。

 一色氏は「堺さんは圧倒的な経験値で、自分のやるべきこと、求められていることを的確に演じてくださっている。時にはユーモラスに、時には真剣に、と変幻自在。天皇とのシーンでも、見ている側がクスッとなれるような芝居を差し込んで、緩急のリズムを生み出してくださった。作品のペースメーカーとして、いつも自分のあり方を追究してくださる貴重な存在」と語る。

 今後も天皇の思いを東庵がどのように引き出すのか興味深い。

 ◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局デジタル編集部専門委員。芸能取材歴約30年。現在は主にテレビやラジオを担当。

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