矢沢永吉「俺だって食わなきゃいけない」未発売の伝説ライブ3本、初の有料配信へ

[ 2020年6月17日 03:00 ]

コロナ禍での現状について語った矢沢永吉(撮影・会津 智海)
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 ロック歌手の矢沢永吉(70)がスポニチ本紙の単独インタビューに応じ、未発売の伝説的なライブ映像3本を初めて有料配信すると明らかにした。コロナ禍で音楽活動ができない状況が続いており「デビュー48年で初めての経験。俺だって食わなきゃいけない。社員食わせなきゃいけないんだ」と死活問題であることを強調。「時代は来てる。俺、新しい扉を開けるよ」――。70歳の永ちゃんが動きだした。

 矢沢が所有する東京・赤坂のスタジオ。コロナ感染拡大後初めて会ったが、現れるなり「毎日毎日、待機待機待機で。俺もちゃんと家でじっとしてましたよ。でもね、そんな生活も2カ月超えると、クゥーッ!」と悶絶(もんぜつ)しながら爆発寸前。

 自らレコード会社もライブ制作会社も経営し、スタジオの利用客も激減。「もう、足踏みしてるわけにはいかない。人前で歌うことで生きてきた我々には今、仕事なんてないです。2カ月過ぎるともう大ごとよ。会社があるから社員を食わせなきゃいけない。俺だって食わなきゃいけない。芸能人だって同じです。生きていかなきゃいけないんだよ」

 さまざまな経済活動が再開される中、音楽業界はライブ演奏やレコーディングの“3密”状態を避けることが求められ、補償も含め対応は後手に回っている。「やっぱり僕らは水商売なんだ。今回でつくづく分かった。ステップ1とか3とかあったけど、僕ら一番最後ですから。でもね、最後なら最後なりに腹のくくり方があります」

 戦後の復興期に生まれ、右肩上がりの経済の中で成り上がろうとがむしゃらに生きてきた。「全てはその時代時代を生き抜いた“事実”だからね。俺はこの性格だから、どの時代でも適当に流してってわけにはいかなかった。僕は僕ですから。あの時代も矢沢永吉だったし、今も70すぎても矢沢永吉です。今回のコロナすげえなって感じてますし、足踏みに飽きた矢沢はやっぱりそこにいます」

 だが「人に迷惑を掛けることはできない」という中、「マジで模索してたどりついた」のがライブの有料配信だ。いま流行の無観客ライブの同時中継は既に14年前から試みており「今回はちょっと違って、過去に商品化していないライブ映像をアーカイブ的に見せていく感じで。まずは実験的にやってみる」という。

 配信するのは伝説的なライブ3本。プロジェクト名は代表曲にちなんで「3BODY’S NIGHT」とした。第1弾は日本のロックシンガーで初の日本武道館単独公演を行ってから40年目の節目に敢行した記念公演「TRAVELING BUS 2017」。2時間超のステージを全曲ノーカットで今月27日に配信する。

 第2弾は古希を迎えた昨年の「ROCK MUST GO ON」ツアーの横浜アリーナ公演。第3弾は50歳を迎えた99年に全50本で開催した記念ツアーの武道館公演。それぞれ8月上旬と9月以降に配信予定で、詳細は矢沢永吉公式サイトで順次発表される。

 「通常、未発売映像ってDVD&ブルーレイで販売するのが普通で、僕が開けたことのなかった扉です。最終作業は全て自分でやります。最高の音と映像のヤザワをおウチにお届けします」と強調。「自分の活動がこれを軸にやる時代が来るとは思ってもみなかった。でもね、こういう経験したことのない脅威に遭遇したことで物事が劇的に動くことがある。僕の場合はコロナによって有料配信へと一歩踏み出せた。それは事実です」

 配信だからこそ得るものもあり「家族とかみんなで見られるし、酒飲みながら、メシ食いながらでも。矢沢のライブを一度見てみたいと思った人の入り口にもなる」と期待は大きい。だが、一方で「“生”に勝てるものはない。今までもこれから先も、矢沢はそう信じている」とライブへの熱い思いも強調。「だから両方やる。今後はライブひとつでも、いろんな見せ方でファンにアプローチしていくことになる」という。

 極貧の少年が夜汽車で上京し、伝説のバンド「キャロル」でデビューして48年。オーストラリア犯罪史上2番目の被害額34億円の巨額横領事件に遭うなど、数多(あまた)の成功と挫折を経験した。「人生は失うものを増やしていくゲームだ。“俺には失うものがねえ”って言う人いるけど、それじゃダメなんだよ。失うものが増えていった方が頑張ってきた証だから」。矢沢はもう、止まらない。

 ◇矢沢ライブ配信 視聴チケットは17日午前5時から「3BODY’S NIGHT」特設サイトから販売。価格は2800円(税込み)。第1弾は6月27日午後8時にスタート。見逃し配信もある。配信収益の一部は新型コロナの治療や研究開発にあたる医療機関に寄付される。

 ≪大好きな酒を…「今はステージの方が魅力なのよ」≫大好きな酒を「やめた」という。完全な断酒ではないが「コロナで何もできなくなったことで、よく分かったんだ。俺はライブやりたいんだって。やりたくて仕方がないんだ。だったら、いつでもライブできるように万全の体をキープしとかないと。今はうまい酒飲むより、生のステージやることの方が魅力なのよ」。目標はいまだ現役の英歌手ミック・ジャガー(76)。「俺もあと6年はやらないと。それとね、目的がはっきりして生きていけるというのは幸せなことですよ。それはこの年になると分かります」。

 ◆矢沢 永吉(やざわ・えいきち)1949年(昭24)9月14日生まれ、広島市出身の70歳。75年9月にアルバム「I LOVE YOU,OK」でソロデビュー。78年、著書「成りあがり」は100万部を超えるベストセラーになり、「時間よ止まれ」がミリオンセラーを記録。同年の長者番付歌手部門でロックミュージシャンとして初の1位。80、82年にも1位を獲得。81年に全米デビュー。09年に自らレコード会社「ガルル」を立ち上げた。
 

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