「柔侠伝」バロン吉元さん“画業還暦”でなお無型の筆さばき

[ 2019年11月6日 07:30 ]

東京都江東区の森下文化センタ―で行われた「マンガ講座」で、バロン吉元さん得意の「ロボたこ踊り」を披露
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 ここ数年、漫画取材を続けてきた記者が、このところ気になっていた人がいる。70年代の名作「柔侠伝」シリーズなどで知られるバロン吉元さんだ。

 …などと書いたものの、実は恥ずかしながら最近までバロンさんも「柔侠伝」も詳しくは知らなかった。それが今年になって「柔侠伝」豪華新装版や「バロン吉元画集 男爵」の発売、東京・弥生美術館でのバロン吉元展開催、日本漫画家協会賞・文部科学大臣賞の受賞などトピックが相次ぎ、注目していた。

 そのバロンさんが3日、東京・森下文化センターでトークイベントに登場すると聞き、取材した。同所で月1ペースで開催中のスポーツ漫画講座の第3回。「柔侠伝」は物語の軸の1つが柔道のため、講師に招かれた。

 バロンさんが、阿波踊りを基にした「ロボたこ踊り」なるダンスを舞いながら登場したのに度肝を抜かれたが、もちろん講座にはグイグイ引き込まれた。

 進行役の漫画編集者・綿引勝美さんは「柔侠伝は、初めて正確に格闘技の技を描いた漫画。主人公の必殺技“鬼巻き込み”を可能にする長い足指の解説にページを割いたのも面白い。柔道着のたたみ方まで描かれた」と、その革新性を指摘すると、バロンさんは「柔道技の写真資料もない頃だったから、学生の頃に柔道部だった私が、実際に体感したことを描いていた」と回想。会場内のスクリーンに大映しされた漫画のコマを見て「それなりに(実際の技と)合っていたね」と笑顔で見入った。格闘家のファンも多く、バロンさん自身も選手や関係者と親交があったという。

 柔道家だけでなく、多くの若者の心をつかんだ作品だ。明治から昭和を舞台に、主人公を柔道の達人・柳勘九郎から子孫へと次々にバトンタッチして描かれる青春大河。歴史的事実を織り交ぜてリアリティーを与える手法も含め、後の「ジョジョの奇妙な冒険」に通じる部分もある。学生運動に身を投じた若者が「バリケードの裏で読んでいた」との逸話もある。週刊漫画アクション(双葉社)で発表された1970~80年の10年間で「昭和柔(人ベンに峡の旧字体のツクリ)伝」などシリーズ5作が描かれ、当時では異例の長期連載となった。

 講座終了後、バロンさんに当時の熱狂ぶりについて聞いた。「右も左も読んでいたとはよく聞くし、学生運動の若者にもウケたというけどね。理不尽と不条理が渦巻く世の中で、主人公は柔軟な精神に基づく生き様をさらしながら、強く生きようとする。しかしそれは悩みが多い。自由に生きようとすればする程、逆に不自由になる。でも、そんな生き方に一瞬の輝きを感じることもある。そういう部分に共感してもらえたんだと思う」と振り返った。

 「柔侠伝」は来年50周年。同席した出版関係者によると、ブーム再燃の兆しがあるそうで「世論がネットで先鋭化しやすい今の時代は、思想が左右で極端に別れた70年代と似た空気があるのかもしれない」と分析した。バロン作品再評価の動きは海外でも高まっており、今年出た画集「男爵」は、米国や欧州でも翻訳されて発売された。現在も海外で新たな出版企画が動いているという。
 80年代には全連載を突然終わらせ、日本を飛び出したバロンさん。米国を拠点に世界を目指した。マーベル・コミックの「THE SAVAGE SWORD of CONAN」というコミックの中に描いた「IN THE DESERT OF DREAMS」という作品は、恐らく日本人が初めて同社で描いたものだ。

 帰国後は「龍まんじ」名義で絵画制作を開始。「バロン吉元だと分かってしまうと、名前で絵が評価されてしまう」との思いから、2015年に雅号を「バロン吉元」に統一するまで、素性を30年以上も隠したという。今も精力的に活動し、昨年まで2年連続で京都・高台寺へ襖絵を奉納、話題になった。

 聞けば聞くほど、型破りな漫画家人生は、筆を使ったそのタッチにも表れている。作品群をざっと見返すと、何度も絵柄が変わったように見える。「普通は1つのスタイルを基盤に進化して行くのかもしれないけど、私は同じスタイルで進むというのは考えられなかった。確立しかけた型をあえてなくすというのは、それなりにエネルギーが伴うけど、それでも作品ごとの世界に合った絵にしたい。1つの挑戦が終わると、次の挑戦はまた一から始める。新人の頃から変わらず“終わって、また始めて”の繰り返し。創作とはそういうものだと思っている」と目を輝かせた。

 今年でデビュー60年。「画業還暦」を迎えても、なお“型のない漫画家”バロンさん。変化を求め続ける筆の動きを見続けたい。(記者コラム・岩田浩史)

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