もうすぐ喜寿 名バイプレーヤー石橋蓮司の哲学「俳優は監督の狙いを身体化しなければ」

[ 2018年5月12日 06:30 ]

映画「孤狼の血」に出演する石橋蓮司
Photo By 提供写真

 荒くれ者、くせ者、好々爺…。芸歴60年超の大ベテランの引き出しはいくつあるのだろうか――。8月に喜寿を迎える俳優・石橋蓮司。12日公開の映画「孤狼の血」では、陰で事件の糸を引く裏社会のドンで圧巻の演技を見せる。

 「孤狼の血」は、映画「仁義なき戦い」を筆頭にした東映任侠(にんきょう)実録路線を引き継ぐ1本。映画「凶悪」「日本で一番悪い奴ら」などのアウトロー作品で高い評価を受けた白石和彌監督(43)の挑発的な演出姿勢は、ベテラン俳優を前にしても変わらない。際どい下ネタでさえ要求する。監督とは初顔合わせで、その年の差33。それでも石橋に困惑の色はない。「手のアクションも交えて言ったけれど、バストショットだから画面に映らなかった。もっとオーバーにやればよかったかな?」。石橋の方が一枚上、だった。

 俳優として監督が望んだもの以上を出そうとするのは「スクリーンに映っている被写体が勝負」という姿勢ゆえのもの。「お客は監督を見るのではなく、映っている俳優を見てその作品を理解する。その被写体が物語の世界観に合っていないと、監督の狙いが届く前に映画からお客さんが離れてしまう。そうならないように俳優は監督の狙いを身体化しなければいけない」。

 近年はスタッフ・キャストの中で最年長という現場ばかりになったが「参加した以上は監督が満足できるよう、狙いに沿った材料を与えたい。そのためには彼らがこれまでどんな世界で生きてきて、何を願って現代のお客さんに作品を届けようと思っているのか。まずは俺が年下の彼らを理解しないとダメ。初めての監督と組むときはお見合いのように緊張するよ」。ここまでベテラン俳優が思考していると、優しさも感じるが、逆に監督をはじめスタッフも逃げ場がない真剣勝負をしなければならない。昭和16年生まれの名バイプレーヤーに妥協はない。

 若さとタフさの秘訣は「酒とタバコ」。今も昔も変わらない。その2つを友にして、血気盛んな頃はさまざまな文化人が行き交う新宿ゴールデン街で芝居について、人生について語り明かした。昨今は対面の人付き合が希薄になりつつあるが、その熱っぽさを若手たちに伝承したいという気持ちもある。「俳優同士、酒とタバコを交えて居酒屋で話をする。会話することで若さを取り戻すこともあるし、昔を思い出すときもある。意見を言ったり、聞いたりすることで自分に躍動感を持たせることもできる。しゃべることで自分の脳みそを休ませない。そうやって社会から離れないでいることが、若さを保つことにもつがる」。

 肉体の年相応の変化を痛感することもある。「この世代でこんなに過酷な仕事はないね。もういい加減寝たきりじいさんの役をやらせてくれと思うよ」と苦笑いも「かといって趣味もないし、演技することでしか社会と会話する方法を持っていない。俺から役者を取ったら本当に何もない。仕事となると何でもやっちゃう。それだからアクションとかやらされてさ、まいっちゃうよな、この歳で」。言葉とは裏腹に嬉々として語る。“社会と会話する方法”をどれだけの人が持っているだろうか。とても幸せな役者である。(石井隼人)

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