「石つぶて」主役・佐藤浩市に“執着”したワケ 地味な刑事ドラマゆえ「背中で語れる」

[ 2017年11月4日 08:00 ]

「連続ドラマW 石つぶて〜外務省機密費を暴いた捜査二課の男たち〜」の主演を務める佐藤浩市(C)WOWOW
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 俳優の佐藤浩市(56)が6年ぶりに連続ドラマ主演に挑むWOWOW「連続ドラマW 石つぶて〜外務省機密費を暴いた捜査二課の男たち〜」(日曜後10・00、全8話、初回は無料放送)は5日にスタートする。ノンフィクション作家の清武英利氏が書き下ろした著作を原作に、フジテレビ「振り返れば奴がいる」や映画「沈まぬ太陽」などの若松節朗監督が演出、テレビ朝日「相棒」シリーズなどの戸田山雅司が脚本を務め、2015年9〜10月に放送され、ギャラクシー賞月間賞に輝くなど高く評価された同局「しんがり〜山一證券 最後の聖戦〜」のオールスタッフが再集結。今度は01年に発覚し、政官界を揺るがした「外務省機密費流用事件」を描き、国家のタブーに切り込む。WOWOWの岡野真紀子プロデューサーが佐藤の起用に込めた思いを明かした。

 原作は、今年7月に発売された清武氏の「石つぶて 警視庁 二課刑事の残したもの」(講談社)。「石つぶて」とは石ころのこと。「1つ1つは小さな石ころでも、投げ続ければ敵陣に傷跡を残す確かな武器になる」という意味が込められた。外務省の汚職事件を掘り起こした名もなき刑事の姿を描く。

 ドラマは「〜外務省機密費を暴いた捜査二課の男たち〜」と原作とは副題を別にし、外務省の事件を強調。岡野プロデューサーは「タブーに切り込む時、プロデューサー1人が意気込んでも、モノは作れません。会社(WOWOW)も含め、みんな、タブーを扱うことに不安になってくるので、そこに乗ってくれる、仲間になってくれる役者、演出家、脚本がいないと。ドラマ作りの上で安心感を生むには、誰が主役を演じるかが非常に大事。浩市さんがやるとおっしゃらないと、実現しないんです、という思いでした」とキャスティングに最大限の力を注いだ。

 最初のオファーに、佐藤は前向き。ただ、岡野氏は「もしシナリオがつまらなかったら、やめると言っていただいて結構です」と宣言。佐藤を口説き落とすために「リスクヘッジはしても自主規制はしない、エッジの利いた脚本を作ろうと。外務省は外務省として、そこに官邸がどう関わったのかもキッチリ描いています。総理の名前も実名」と粉骨砕身した。

 主人公もアテ書き(=演じる俳優を想定して脚本を書く)。まだ佐藤がオファーを正式に受ける前の今年3月、準備稿を渡した際、1枚目には既に「佐藤浩市」と名前を入れたほどだった。「台本は役者へのラブレター。フラれたらあきらめますが『絶対にあきらめないぞ』という意味で、完全にアテ書き。これだけアテ書きして断られていたら、どうなっていたか分かりません」と苦笑いしながら「浩市さんが引き受けてくださったのが、ものすごく大きかったと思います。そこからは話が早く、浩市さんが主演ならと、いろいろな人に集まっていただけました。浩市さんの主役は執着したキャスティング。断られていたらと思うと、怖くて考えたくありません。(お蔵入りの)可能性は全然ありますよね」と振り返った。

 今回描かれる捜査二課は贈収賄などの汚職のほか、詐欺、横領、選挙違反などの知能犯・経済犯罪を扱う。「これが(殺人や強盗などの凶悪犯罪を扱う)捜査一課の物語で、犯人を走って追い掛け回すドラマだったら、もしかしたら違う人でもよかったのかもしれません。今回の主人公は、事件といっても目に前には何もなく、情報を掘り起こす作業は、銀行を回って口座を調べるなど、派手な絵(画)にならない。銃も持たない、車にも乗らない、こんな地味な刑事ドラマをどう作ればいいんだと思った時、主人公はそこにいるだけで絶対的に物語を語れる男じゃなきゃいけないと思ったんです。浩市さんほど背中で悲哀、情熱、人生観を語れる役者さんは、そうそういない。この人しかいないとお願いしました」。また、佐藤は出演作選びにこだわりがあると映り「浩市さんはきっと自分が本当にシンパシーを感じた作品にしか出演されないんだろうな、と。もし、浩市さんが選んでくださったら、この企画は間違いないと自分自身も思えたんです」と確信した。

 撮影は9月にスタート。「浩市さんが何よりもすごいと思うは視聴者のことを考えていらっしゃること。『おもしろいもの、エッジの利いたものは作りたい。しかし、視聴者に届かなければ意味がない』という思いがベースにあって『この言葉って、視聴者に届くかな』『この言葉って、こう言った方が視聴者に伝わると思うよ』と、しょっちゅう仰り、日々アドバイスを頂いています」。第1話の冒頭、警視庁の組織図が表示され、捜査二課が何をしているか説明されるが、これは「警視庁=捜査一課と思っている視聴者も多いと思う。そこを説明しないと、物語に入っていけない」という佐藤のアイデア。佐藤演じる捜査二課第一知能犯情報係主任・木崎が、外務省のノンキャリア職員に贈収賄容疑があることを知った時のリアクションも、佐藤の発案で変更。岡野氏は「どう表現したら伝わるのか常に考えていらっしゃる。本当に勉強になります」と最敬礼した。

 「今、一緒に闘っている感覚です」。百人力の仲間を得て、撮影は11月末まで行われる。

 【「石つぶて」ストーリー】警視庁捜査二課の情報係係長に斎見晃明(江口洋介)が着任。情報係には捜査四課時代、斎見と合同捜査を共にした偏屈な刑事・木崎睦人(佐藤浩市)がいた。その頃、木崎は情報収集のために足しげく通う元国会議員の事務所で、外務省のノンキャリア職員に贈収賄容疑があることを知る。折しも九州沖縄サミットの開催が決まり、外務省に法外な予算がつく時期だった。木崎は、省庁の中でも最も聖域とされる外務省への疑惑に興奮。しかし、かつて内閣府に対する捜査情報が漏れ、政治的な圧力でつぶされた経験があり、上司でも捜査情報の共有を拒む徹底ぶりだった。木崎が外務省という巨大な敵を標的にしていると直感した斎見は、単独捜査の無謀さを説き、強引に木崎に近づこうとする。その中、外務省への疑惑は政官界を揺るがす大事件に発展し、彼らの前に国家の壁が立ちはだかる。

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