水谷豊 白髪姿の初メガホン 40年温めた“4度目の正直”

[ 2017年5月21日 10:00 ]

ニヒルな表情を見せる水谷豊
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 【俺の顔】人気シリーズ「相棒」など数多くの代表作を持つ俳優で、歌手でもある水谷豊(64)に新たな顔が加わった。6月17日公開の映画「TAP―THE LAST SHOW―」で監督に初挑戦。熱い演出の合間に冗談を忘れず、明るく撮影現場を盛り上げる遊び心あふれる人柄。先輩俳優に教わった「粋」の心得が、生き方に根付いている。

 「相棒」の右京さんは放送開始から17年たっても変わらぬ黒髪だが、実際の水谷は白髪交じり。主演も務める「TAP―THE LAST SHOW―」では、役に合わせ、映像作品で初めて白髪姿を披露する。「朝起きて鏡を見ると“誰だ!”って言いたくなるくらいの顔になってきてますからね。だいたい自分を過大評価してるんでしょうね。鏡を見て“あれ?”って思うなんて」。ユーモアたっぷりに話し笑う姿には、大人の余裕と品格が漂う。

 監督デビューのきっかけは、プロデューサーからの依頼。20代の時にタップダンスを題材にした作品を着想し、これまでに3度製作に乗り出し頓挫したが、2年前、プロデューサーに雑談の中で話したところ企画が実現。「その世界を撮れるのは水谷さんしかいない」と口説かれた。40年間温め続けた作品を自らの手で映像化し、世に送り出すことになり「“4度目の正直はあるんだ。3度で諦めちゃ駄目だな”と思いました」と感慨ひとしお。

 ケガで舞台を降り自堕落な生活を送る元天才タップダンサーと、若いダンサーたちが最後のショーに向けて奮起する物語。準備段階からオーディションやロケハン、スタッフとの打ち合わせなど監督業は休みなし。昨年4月から1カ月間の撮影中は、芝居経験がないダンサーたちに自ら演じて指導する傍ら、「ベリグー!」と声を掛けたり冗談で和ませ、誰よりもパワフルに駆け抜けた。

 「寝てないことにも気がつかないんですよ。俳優の時はベッドの中でアイデアが出てきても“忘れたら忘れたでいいか”と起きない。でも、監督になったら忘れたくないからすぐに起きてメモをし始める。それが始まると朝まで寝ないんです。楽しくなっちゃって」

 20代の頃、ドラマ「傷だらけの天使」などを手掛けた工藤栄一監督から「監督をやれ」と誘われるなど、監督に挑戦する機会は何度かあった。「一度だけでなく、その先もやるという覚悟ができなければ監督はやっちゃいけないと思ったんです。つまり、今回は覚悟したってことですね」とニヤリ。「TAP」が完成し、湧き上がってきたのは「さて、次へ行くぞ」という思い。「“TAP”は手に入らない夢だと思っていたけど手に入った。次なる夢を探そうと思います」。そう語るのは、紛れもなく「監督・水谷豊」の顔だった。

 70年代に出演したドラマ「傷だらけの天使」や「熱中時代」で大ブレーク。1世代下には水谷に憧れ芸能界を志した俳優も多い。00年には「相棒」に出合うなど、長年第一線で活躍している。

 「定年もないけど、やりたいと思って続けられる仕事でもない。不思議な仕事に携わったなと思います」

 仕事だけでなく、生きる上でも心掛けているのは「粋」だ。若い頃から親交があった先輩俳優の地井武男さん(12年死去、享年70)からある時、「豊ちゃん、粋の意味知ってる?粋って九、十と書いて、それに米へんだろ。九じゃだめ、十でもだめ。その間の米一つの世界が粋なんだ」と教わった。

 「九じゃ足りないけど、十じゃやりすぎ。何でも目いっぱいになってがむしゃらになればいいかというとそうじゃない。その間の粋の世界にあるのは、ユーモアとか色気とかなんだと思います。それを聞いてからは、そういうところで過ごせればなと、ふと思いをはせます」

 交友関係も幅広く、本紙競馬予想でもおなじみの木梨憲武(55)とは長年の友人。「毎日のようにショートメールのやりとりをしてます。(木梨が)“予想が当たりました”とか送ってくるんですよ。お互いにどうでもいいことを送り合っています」

 かつて、2人で競馬場に行った時の笑い話もある。「パドックで馬を見ながら“何番の馬体の張り、毛づやがいいね”と話して、予想も見ないで2人でその馬から流して買ったんです。そしたらその馬、最下位ですからね。“パドックってさ、見なくていいね”“あの張りとかツヤはなんだったんだろう”なんて言い合った。それから僕は競馬はあんまりやらなくなっちゃいました」。

 熱く、軽やか。“米一つの世界”が希有(けう)な魅力を生み出している。

 ≪本物のダンサー起用!!≫同作は本格的なタップダンスにこだわり、ダンサー役にはオーディションを経て本物のダンサーたちを起用。「ハイライトの24分間に及ぶショーのシーンで観客を別世界に連れていくという思いがあった。それが達成できたと思います」と胸を張る。主人公の元天才タップダンサー・渡真二郎を演じたことについては「こんなに役者としての自分を考えなかったのは初めて。監督が私に何も言わないものですから」とおどけた。

 ◆水谷 豊(みずたに・ゆたか)1952年(昭27)7月14日、北海道出身の64歳。13歳の時に児童劇団に入り、1968年にフジテレビ「バンパイヤ」でデビュー。74年の日本テレビのドラマ「傷だらけの天使」で脚光を浴び、78年の「熱中時代」で人気に火が付いた。映画では76年「青春の殺人者」でキネマ旬報主演男優賞を受賞。歌手としては「カリフォルニア・コネクション」などのヒット曲があり、08年にNHK紅白歌合戦に初出場。89年に元キャンディーズの伊藤蘭(62)と結婚。長女の趣里(26)も女優。

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