松ケン、将棋はハプニングが面白い「一番心が震えた」王将の二歩

[ 2016年11月20日 09:23 ]

好きな駒の「桂馬」。桂馬を手に松山ケンイチは天才棋士に思いをはせる

 映画「聖の青春」(監督森義隆)に主演した俳優松山ケンイチ(31)が大阪・福島の関西将棋会館などでの撮影を振り返った。羽生善治3冠と同世代の棋士、故村山聖九段を熱演。29歳で亡くなるまで打ち込んだ将棋に触れ、2012年のNHK大河ドラマ「平清盛」に匹敵する情熱で臨んだと明かした。棋士と将棋ソフトの関係が問題視される昨今、人知の激突が描く盤上のドラマを「パソコンじゃあり得ない」との人間賛歌で締めくくった。

 この人から「奥さん」と聞くと女優小雪を連想してしまう。5歳で発症したネフローゼと闘いながら将棋に打ち込んだ村山九段。松山は29歳で亡くなるまでの生涯を演技を通じて体感し、「病と結婚して奥さんにしたんじゃないかと思うくらいの付き合い方」と表現した。

 誰だって遠ざけたい病の存在。5歳からの闘病生活が、村山九段の考え方を変えたとみる。「病が神様であり悪魔であり、仏にもなる」。分かち難い同志のような存在と推測した。

 「平清盛」の出演を終え、自宅で本棚を整理中、大崎善生氏の原作を見つけた。もらったか買ったのに読まなかったか。同じ29歳の人生に感銘を受け、「命を削って燃やして、自分の意志で使い切った人。自分も命を燃やしてやれる役柄を探していた。20代で清盛。30代でもそういう役をやりたいと思った」。当時映画化を進めていたプロデューサーを探し出し、村山九段役を名乗り出た。

 ネフローゼは腎臓のろ過機能が異常を起こし、血管内の水分があふれ出して顔や手足がむくむ。難病を表現しようと20キロ増量した。不摂生すれば体重は増えるが、内臓脂肪が大きくなってもスクリーンに反映できない。4カ月かけてウエートトレに励んで外見的に大きくした。「18年ぶりに村山君に会えた気持ち」。村山九段の師匠森信雄七段からお墨付きを得た。

 将棋は羽生の7冠独占が話題だった小学校高学年で覚え、ゲームソフト、また映画の撮影現場では共演陣と親しんだ。その魅力を「ハプニングが面白い」とする。好手のつもりで指したのに相手にとがめられて悪手と悟った瞬間、「人間がドッと燃える感じ。ハプニングを待っている」と失敗を面白がる。

 先月の開幕直前に挑戦者が交代になった竜王戦7番勝負。挑戦者だった三浦弘行九段が将棋ソフトの不正利用を疑われ、出場停止処分になった。松山が関心を抱くのは人間とソフト、その知恵比べではなく、人間同士の勝負だ。

 例に挙げたのが9月、郷田真隆王将が佐藤天彦名人とのJT杯で反則負けになった禁じ手の二歩。タイトル保持者の反則負けは極めて異例で、「最近、一番心が震えた」と興奮を物語る。

 「何やってるんだ?ということでなく、それが人間。人間のほころびのようなものでそれが魅力でしょう。自分が面白がっているのはパソコンじゃ絶対に再現できないこと」。郷田優勢の終盤、両者秒読みの切迫感や緊張、迷いが生んだドラマに敬意を表した。個人的関心と役者魂が融合した1本、言葉に力がこもるのも自然だった。

 ◆松山ケンイチ 1985年(昭60)3月5日、青森県出身の31歳。2001年、モデルとしてデビューし翌年、読売系「ごくせん」で俳優デビュー。映画は05年「男たちの大和 YAMATO」で注目を集め、08年「デトロイト・メタル・シティ」、10年「ノルウェイの森」などに主演。1メートル80。

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