この天才子役から目を離すな!

[ 2016年10月29日 09:05 ]

 【佐藤雅昭の芸能楽書き帳】前回の当コラムで来年公開予定の映画「花戦さ」(監督篠原哲雄)に触れたが、この作品に町娘の役で出演しているのが伊東蒼(いとう・あおい)という11歳の子役だ。

 撮影は既に終わっているが、この子に製作スタッフがメロメロになっている。なんと、作品に携わった一人一人に手書きの礼状が届いたのだ。しかも印刷したものでなく、人によってそれぞれ内容が違っている。ある宣伝マンが感激で顔を上気させながら、この話を披露してくれた。

 礼儀をわきまえない大人も少なくない世の中。親御さんや事務所の教育が行き届いているのか、それは分からないが、受け取った人たちは、みな一様に気持ち良くなっている。直木賞作家の戸板康二さんに「ちょっといい話」という名エッセーがあるが、これも“ちょっといい話”だ。

 さて、蒼ちゃん。大阪市出身で5年前にデビュー。目下売り出し中で、早くも「天才子役」と呼ばれている。10月29日公開の「湯を沸かすほどの熱い愛」(監督中野量太)にも出演。今年の日本映画ナンバーワンとの呼び声も高い1本だ。

 宮沢りえ(45)が演じる主人公のダメ亭主(オダギリジョー)が外につくった子で、オーディションを見事に勝ち抜いて役をゲットした。名のある大人の俳優たちが、それぞれ魂の入った演技を披露する中で、決して埋没することなく存在感を示しているのは、やはり非凡なものを感じさせる。「ただもの」ではない。

 年明け1月21日には安藤サクラ(30)とダブル主演した「島々清しゃ(しまじまかいしゃ)」も公開を待つ。12年に100歳で死去した新藤兼人監督の孫、新藤風監督(39)の「転がれ!たま子」以来11年ぶりのメガホン作。沖縄・慶良間諸島を舞台に、耳の良すぎる少女・うみを美しい自然も顔負けの自然体で演じている。

 それにしても「湯が沸くほどの…」で宮沢、「島々…」で安藤と、当代の日本映画界を代表する大女優と続けて共演できたことは幸せなことで、何よりの財産となる。

 これは確認したわけではないが、きっと両作品のスタッフにもかわいらしい手書きの手紙は届いているだろう。やがて、この手紙がとんでもない宝物に化ける可能性もある。末恐ろしい才能を秘めた伊東蒼。達者な子役は多いが、読者の皆さんも、この名前を覚えておいてください。(編集委員)

 ◆佐藤 雅昭(さとう・まさあき)北海道生まれ。1983年スポニチ入社。長く映画を担当。

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