松本零士氏、戦後70年に思う「人間同士で争っている時代でない」
激動の戦後を描いた著名漫画家に、あすへの提言を聞く第3回は松本零士氏(77)。1970年代後半に「銀河鉄道999」「宇宙戦艦ヤマト」などのSF漫画、アニメで、現在に続くクールジャパンの基礎をつくった。「地球全体の生命保全が危なくなっているのに、人間同士で争っている時代でない」とメッセージを送った。
「銀河鉄道999」は1977年、第1話を発表。主人公・星野鉄郎は、SL型「999号」に乗って地球から宇宙へ旅立つ。アンドロメダ星雲のある終着駅で機械の体を手に入れるためだ。空へと延びるレール。列車は汽笛を鳴らし、黒煙を上げ、星空に吸い込まれていく。
「あれは、小倉から蒸気機関車に乗って上京した私そのもの。18歳だった。漫画家になる夢を胸に、画材と片道分の料金だけ持っていた。999は空へ上がって行くが、私は関門トンネルをくぐるため下がっていった」
当時、漫画家の地位は決して高くなかった。
「文化の中で最低とみられ、バカにされていた。でも周りがなんと言おうとなるつもりだった。成功するまで死んでも帰らんと決意していた」
東京まで丸1日の列車の旅。隣の席にメーテルのモデルがいたのだろうか。
「絶世の美女が一緒にいれば良いなあと想像した。劇中の言葉通り“青春の幻影”です。車窓から夜の瀬戸内海を見ると、星の中を列車が走っているようだった」
メカ好き、SF好きは陸軍士官で戦闘機乗りだった父の影響だ。小学2年で終戦を迎えるまで、一家は父とともに各地を転々とした。
「父が(兵庫県)明石市にあった川崎航空機の工場で試作機のテストをしていた時は、身近に飛行機の図面もあった。銃を手にしたこともある。父から聞く飛行機の話で、空に思いをはせた」
疎開先の愛媛県では、米グラマン戦闘機の機銃掃射を間近で見た。
「轟(ごう)音とともに、目の前に低空飛行してきた。パン、パパンと撃った先で、列車が穴だらけにされた。白い蒸気が上がっていた」
戦後は占領軍であふれる小倉に移住。高校卒業までの多感な時期を過ごした。
「米兵が投げるチョコやキャンディーを、やせがまんして踏みつけた。米兵にこびを売る人々を見て“あわれ亡国の民”などと思った。でも彼らを憎まないようにした。彼らをそうさせた状況が悪いのだと思った」
漫画家となり「戦場まんがシリーズ」「宇宙海賊キャプテンハーロック」など多くの戦闘場面を描いているが、込めた思いは同じだ。
「人間はお互いの利益や思いがあり、衝突してきた。大きなダメージがあった。進化を促した面もあった。今、地球全体の生命保全が危なくなっている。人間同士で争っている時代でない」
70年代後半はキャラクターデザインなどを手掛けた「宇宙戦艦ヤマト」や「999」のアニメや映画が大ヒット。大人を巻き込み、アニメブームの基礎をつくった。
「私一人がつくったのではない。機動戦士ガンダムがその後ヒットしたのも良かった。業界全体でバトンタッチして進化していけばいい。その時代時代で頑張る人がいて、次の世代の可能性を広げていくんです」
最近、松本零士作品から飛び出したような機械や構造物が増えたと感じている。漫画家冥利(みょうり)につきる出来事があった。
「道路設計者のパーティーで、ある高速道路の空中交差は、私の漫画を見て着想したと聞いた。感覚や創作欲のバトンタッチが起きた。こうして、イメージのやりとりをしながら、人類の進歩がある」
「999」は未完成の意味を込めて命名した。物語は今も続く。漫画家人生も、目的地へ続くレールの途中だ。
「地球をこの目で見て描きたい。裏側を見た者と見ない者では、ボリューム感の描き方が違ってくる。民間人が宇宙に行ける時代が来た。片道切符でもいいから、行かせてほしい」
宇宙帰りの松本氏が地球や月を描いた「999」が読みたい。
<巨匠がこの夏お薦めの3冊>
▼あしたのジョー(作高森朝雄、絵ちばてつや)高度経済成長期の日本を象徴するボクシングの名作漫画。「ちばちゃんとは友達だから、どうも冗談ぽく読んでしまう。戦後70年を機に真剣に読んでみたい」
▼サイボーグ009(石ノ森章太郎)石ノ森は完結編を描く前に60歳で死去。「私は彼と生年月日が同じ。なぜ、あの年で逝ってしまうかなあ。どんなラストを考えていたのか」
▼沙漠(砂漠)の魔王(福島鉄次)「アラジンと魔法のランプ」に着想を得た物語。香炉から現れた魔王が、飛行石の力で飛び回る。アメリカンコミック的な鮮やかな配色で、終戦直後の少年を夢中にさせた
◆松本 零士(まつもと・れいじ)1938年(昭13)1月25日、福岡県久留米市生まれ。小倉南高1年の54年、「蜜蜂の冒険」でデビュー。当時から新聞の連載などで学費を稼いだ。代表作は「大四畳半シリーズ」「男おいどん」「クイーンエメラルダス」「新竹取物語1000年女王」や、「スタンレーの魔女」「ザ・コクピット」など戦場まんがシリーズ。01年紫綬褒章、10年旭日小綬章、12年芸術文化勲章シュヴァリエ受章。
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