【内田雅也の追球】何を積むか、どう積むか。

[ 2026年2月1日 08:00 ]

ミーティングの席に着く藤川監督
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 映画『愛を積むひと』を見て10年以上たつ。監督・脚本は『男はつらいよ』や『学校』で山田洋次の下、助監督を務めた朝原雄三だった。東京下町の工場をたたみ、老後に北海道に移住した夫婦の物語だった。

 仕事人間だった夫(佐藤浩市)は仕事がなくなり、暇をもてあましている。見かねた妻(樋口可南子)は憧れだった家の周囲の石塀作りを頼む。

 心臓を患っていた妻は突然倒れ、帰らぬ人となった。独りになった夫の生活は荒れ、悲しみにくれるなか、妻からの手紙が届く。さらに家の中で多くの手紙が見つかる。死期を悟った妻が書き残していたのだ。「私がいなくなった後も石を積み続けて、塀を完成させてください」。妻の願いをかなえようと黙々と石を積む日々が始まる――。

 原作小説のタイトルは『石を積む人』で映画では「愛」と置き換えられた。完成までは遠いが、なぜ積むのか、どう積むのか、何を積むのか。

 ひと昔前の映画を思い出したのは阪神監督・藤川球児がキャンプイン前日に語った言葉「黙って積む」を聞いたからだ。

 「とにかく黙って積んでいく。こういう時期ですね」「昨年以上に黙って積む。とにかく、しっかりチームをつくり上げること」「黙って積むことですね」と繰り返した。

 選手たちが「積む」のは練習、そして研鑽(けんさん)だろう。技術や知識を習得し、自分の能力を向上させることだ。キャンプとはそういう時間、場所である。

 では、積んでいく選手たちを見守る監督はどうするのか。映画を見た後に買ったパンフレットに自分で記した書き込みが残っていた。

 「形のいい石ばかりではない。しかし、必ず役に立つ場所がある」
 石を積み上げていく日々で夫が悟った心境だったか、セリフだったか。印象的だった。

 そう、多くの石を組み合わせて塀はできる。一つずつ異なる石をどう積み上げていくかは、その才量による。監督は多くの選手たちをいかに組み合わせて強いチームにしていくか。その才量が問われるわけである。

 映画では妻の手紙に「古い土台の石が、その上に積まれる新しい石を支えるように」とあった。「私たちが毎日を一生懸命生きることが、世の中を変え、次の世代の生きる支えになる」

 その積み上がっていく様を見つめたいと、沖縄に入った。 =敬称略= (編集委員)

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