【内田雅也の追球】打者の意図がはっきりと見えた2本の犠飛 犠牲の心は勝利に直結している

[ 2023年9月6日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神8ー2中日 ( 2023年9月5日    バンテリンD )

<中・神>初回、阪神・坂本は犠飛を放つ(撮影・岸 良祐)
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 犠飛は英語サクリファイス・フライの訳語である。凡打だが、犠打(サクリファイス・バント)とともに打数に勘定されない。この記録上の取り扱いには自らを犠牲にしてチームに貢献したという意味がこもる。

 大リーグで最初に犠飛規定が設けられたのは1908年。日本のプロ野球も1954(昭和29)年から犠飛を記録する。

 論議となるのは「打者が意図的に犠飛を打ったかどうか」だ。このため「野球実況の神様」「ドジャースの声」と呼ばれた野球殿堂入りアナウンサー、ビン・スカリーは「犠飛」は使わず「得点外飛」と呼んでいた。

 ただ、この夜、阪神が上げた2本の犠飛は外飛で走者を還そうとする意図が見えていた。

 1回表、2点を奪ってなお1死満塁。打席の坂本誠志郎が避けたかったのは内野ゴロ、特に併殺打だろう。つまり外飛を上げることを念頭に置いていたはずだ。だから、低めは捨て高めを狙う。

 シーズン最多犠飛3度の門田博光(元南海など)が「外飛を上げるには手首を返さず、センター方向に打ち返すのがコツになる」と話していた。

 3冠王3度の落合博満は「センター方向への打球が一番飛ぶ」と語っている。だから犠飛もセンター返しが基本となる。

 坂本は忠実に実行していた。涌井秀章の初球、低め速球を見送り、次の高めカーブを中堅左に打ち上げたのだった。「最低限の仕事」とコメントしたが、簡単ではない。

 3回表1死二、三塁でも木浪聖也が中堅方向へ犠飛を上げている。やや浅かったが、三塁走者シェルドン・ノイジーの力走も光っていた。

 坂本で3点目、木浪で5点目。その回最後の1点は効いた。

 阪神のチーム打撃成績で四球とともに傑出しているのが犠飛だ。今季チームで42本を数える。セ・リーグ他5球団は30本にも達していない。

 シーズン49本ペースになる。セ・リーグのシーズン最多犠飛(48本=1998年巨人)を上回ろうとしている。

 4点リードの4回表無死一塁では監督・岡田彰布が「リードすれば1点ずつよ」と中野に送りバントを命じ、3点も入った。犠打も92個とリーグ2番目の多さである。

 岡田は「それぞれが役割をわかっている」と話す。状況に応じた打撃に努め、「犠牲」が勝利に直結していた。 =敬称略=
 (編集委員)

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