横浜高校を復活させた2人　緒方は台湾、杉山はスカウトの前で新たな夢を追う

第31回WBSC　U18ワールドカップ1次R   日本0ー1オランダ （ 2023年9月5日    台湾・台北 ）

1年夏の甲子園大会にともに出場した横浜の杉山（右）と緒方
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　U18高校日本代表は5日、1次ラウンドでオランダと対戦し、0―1で敗れて今大会初黒星を喫した。既にスーパーラウンド進出は決めているが、これで4勝1敗となった。

　横浜（神奈川）の緒方漣内野手（3年）は「3番・二塁」で出場し、3打数無安打だった。それでも今大会は打率・692と打撃絶好調。好守に光るプレーで初優勝を狙うジャパンをけん引する。

　横浜は今夏、神奈川大会決勝で慶応に逆転負けで甲子園出場を逃した。2点リードした9回無死一塁の守備で、「4―6―3」の併殺崩れで1死一塁になったはずだった。だが、二塁塁審の判定は「セーフ」。遊撃手・緒方が触塁できず空過したという判断で、無死一、二塁とピンチは広がった。その後、渡辺千之亮（3年）に逆転3ランを被弾。あと一歩で甲子園を逃し、主将としての責任感から緒方の涙は止まらなかった。

　ネットで大きな反響を呼んだ判定。だが、当事者の緒方は4日のベネズエラ戦後、「審判さんが全てというのは野球の中では当たり前のこと。今は切り替えができている」と悔いのない表情で振り返った。そして「“世界一のために”というところで自分は突き進んでいるだけ。世界大会でしっかりと勝負したいなと強く思っている」と続けた。高校トップクラスの守備力を備える男の夢は日本一から世界一にスケールアップしていた。

　19年春を最後に甲子園出場を逃していた神奈川の名門・横浜。21年に遊撃手の緒方と左腕・杉山遥希（3年）が入学すると、21年夏、22年夏に甲子園出場。今夏は3年連続となる夏の甲子園出場を狙うも神奈川大会決勝で慶応に惜敗。だが、慶応が日本一となったことで接戦を演じた横浜の力が強調される形となった。1年時からエース、正遊撃手だった杉山と緒方は「横浜復活」に貢献した立役者だった。

　緒方が台湾の地で躍動する一方、最速147キロ左腕として今秋のドラフト候補に挙がる左腕・杉山は横浜のグラウンドで汗を流す日々を送る。緒方が台湾に渡った後もラインで連絡を取り続け、親友の健闘を願う。2人は昨秋の新チーム始動時から同部屋で最後の1年を過ごし「一番信頼していた仲間。緒方がいなかったら自分たちはここまで来れなかった。本当に大きい存在です」と杉山は感謝を言葉にする。

　大学進学を志望する緒方と異なり、杉山はプロ志望届を提出する意向。10月26日のドラフト会議が運命の日となる。高校生ながら最速147キロの直球、切れのあるスライダー、チェンジアップを操る完成度の高い左腕。今夏の神奈川大会後も複数球団が練習場を訪れ、目を光らせている。

　緒方同様、杉山も「あの一戦」に悔いはない。「野球は試合が終わるまで何が起こるかわからないと感じました」と成長の糧にする。そして「緒方も1年夏の甲子園で最後の最後に逆転ホームランを打った。やっぱり野球は最後まで分からない」。忘れられない甲子園の思い出を振り返り、口角を上げた。

　神奈川大会決勝ではOBの松坂大輔氏（42＝スポニチ本紙評論家）が記者席から母校の戦いを見守った。背番号1を引き継いだ杉山の熱投を目に焼き付け「9回にピンチを迎えて、一番疲れてくるところでさらにスピードを上げられた。苦しいところでギアを上げられるというのはやっぱり大事なポイント。最終的にいい結果につなげられるようなピッチャーになってくれることを願っています」と期待のメッセージを送った。松坂氏と同じ高卒プロ入りを狙う杉山は「偉大な先輩たちがいるので負けないように頑張りたい」と誓う。

　横浜高校の歴史に杉山と緒方あり。「YOKOHAMA」の名を背負った最後の夏を涙で終えた2人。少し大人になった表情で、それぞれの夢に向かって走り出した。（柳内　遼平）

◇杉山　遥希（すぎやま・はるき）2005年（平17）9月23日生まれ、東京都江戸川区出身の17歳。篠崎アトムズに所属した小6時にジャイアンツジュニアに選出。中学は城南ボーイズでプレーし、横浜では1年春からベンチ入りし、1年夏、2年夏の甲子園に背番号1で出場。憧れの選手は楽天・松井裕、DeNA・今永。1メートル81、79キロ。左投げ左打ち。

◇緒方　漣（おがた・れん）2005年（平17）6月20日生まれ、川崎市出身の18歳。幼稚園年中から野球を始め、川中島中では硬式のオセアン横浜ヤングでプレー。横浜では1年春からベンチ入り。50メートル走6秒4、遠投100メートル。憧れの選手はソフトバンク・今宮。好きな言葉は「執念」。1メートル69、69キロ。右投げ右打ち。