千賀に宿る“人を思いやる心” 「ここに拓也のサインを…」ファンが明かしたほんわか話

[ 2022年12月10日 08:00 ]

19年9月6日のロッテ戦でノーヒットノーランを達成。ガッツポーズする千賀
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 千賀の真っすぐな人間性を見た。エースは、海外FA権を行使して海を渡ろうとしている真っ最中。そんな中で8日、お先にポスティングシステムでオリックス・吉田正のレッドソックス移籍が合意に達した。

 「千賀くん、来たよ」。同日正午過ぎに、球団事務所で待機していたカメラマンからの連絡。他の取材に行っていたが、吉田正の反応を聞く必要がある。急いで戻り、間に合った。約3時間の室内トレーニング後、千賀は施設内の私道に出てきた。ただ、吉田正の質問から、口止めされた。

 「僕は、コメントは、今は…。何もしゃべれない。野球以外の話やったら、いいですよ。無視だけは、したくないので」。横一列に並ぶ記者と千賀の距離は、なぜか大型車1台分の距離ができていた。ハワイ、グアム、サイパンなどの空港前に張り込む昭和の芸能リポーターと芸能人の昔の映像のようで、一人で笑いだしていた。

 すぐそこにいるのに「千賀さーん」が、第一声。「お子さん、おいくつなんですか?」と聞けば即答した。11月の渡米時に元同僚の右腕デニス・サファテと再会を楽しんだ際の様子をSNSをアップ。そのことを聞いた。「サファテさんとの再会は、どうやったんですか?」。野球ネタだが、反応した。「あんまり変わっていなかったですけど。奥様がヒゲが無いと嫌だと言っているらしい」。元守護神の剛毛エピソードを明かしていた。

 迎えの車を待つ千賀のもとに、ここしかないほど抜群のタイミングで、タイムリーな装いに身を包んだ男が現れた。狙ったかのような真っ赤なレッドソックスのトレーナーを着た田中正だった。吉田正と合意したチームの、どでかい「R」のプリントをつけた右腕は千賀にあいさつ。しゃべれない「野球ネタ」だけに、千賀も突っ込まずに冷静にあいさつを返していた。コントのような空間だった。

 千賀には「育成出身初」という肩書きがつきまとう。ただ、支配下選手になるまで苦労、努力をしてきたから、人を放っておかない思いやりや優しさを感じる。自分のことよりも、他人のことを聞いた時の方が喜んで楽しそうにしゃべる。19年9月6日のロッテ戦で育成出身初のノーヒットノーラン。その日の試合球を持っていたファンから聞いた、ほんわかする話もある。

 コロナ禍前。そのファンがボールにサインを書いてもらおうと千賀のもとに行くと、快くサインしてくれた。ただ、一つお願いをされたという。千賀は、自身の書いたサインの真裏の縫い目と縫い目の間を指さし、ひと言。

 「ここに(甲斐)拓也のサインをもらってください。僕(の力)だけじゃないので」

 人を思いやる心が、自然と出る。出せる。野球でも大事なチームワークの根源とみる。“いかつい”ようにも感じる見た目とのギャップに魅力がある。海外でもそのキャラクターや、性格的な部分でも人気が出そうだ。育成出身から初の大リーガーを目指す千賀の心の話。これは、野球の話ではないはず。(記者コラム・井上 満夫)

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2022年12月10日のニュース