【内田雅也の追球】ギラギラもガムシャラも見えた阪神の敗戦 一打同点の場面演出した植田の二盗にしびれた

[ 2022年8月17日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神3-5ヤクルト ( 2022年8月16日    神宮 )

<ヤ・神>9回、植田が二盗を決める(撮影・平嶋 理子)
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 9回表2死、「あと1人」と追い込まれてからの4連打、2点を奪った攻撃が明日につながると信じたい。必死に食らいついた結果である。

 特に一、三塁から代走に出た植田海が1球目に二盗を決め、一打同点をつくった瞬間はしびれた。間一髪だった。自分の働き場所を逃すまいの気概が見えた。

 コロナで離脱していた大山悠輔、中野拓夢、北條史也が1軍に合流。登録が近い。それはすなわち3人が1軍を外れることを意味する。ギラギラした闘争心や競争心こそ今のチームに必要な要素ではないだろうか。

 メル・ロハス・ジュニアが1、2回裏の守りで見せた美技も食らいついた結果だ。1軍枠をかけての意識があるのか。それ以前にボールを追う原点が見えた。父親はドミニカ共和国出身の大リーガー。野球で生計を立てようと必死だった。

 この日はベーブ・ルースの命日だった。1948年8月16日、がんのためニューヨークで死去した。53歳の若さだった。

 本名ジョージ・ハーマン・ルース。童顔で子どもっぽい言動から「ベーブ」(赤ん坊)の愛称がついた。本人も少年の心を大切にしていた。

 伝記にある自転車の話がいい。少年時代、赤い自転車が欲しくてたまらず、プロ入り初めての給料で購入。得意げに乗り回し「やはりベーブだ」と笑われた。その後、何台も高級車を買ったが、自転車の時ほどのうれしさはなかったという。

 16日付の本紙『矢沢の金言』にあるジンライムの話がいい。矢沢永吉はデビュー前、本牧のクラブに出ていたころ、客席の「緑色の奇麗な飲み物」にあこがれた。もらったチップで飲んだ。本物のライムでなくシロップだったが「これバリバリ飲めるところまで行きたい」。矢沢にとっての本物で、原点をバカにするなという。「本当に欲しいものをストレートに選択できること。それが人生では大切だから」

 監督・矢野燿大は本紙評論家時代に見た身体障害者野球世界大会で<ひたすら勝ちにこだわってガムシャラにボールに向かっている>と心を打たれた。プロの選手に見せてやりたいと感じたと著書『捕手目線のリーダー論』(講談社)にある。

 ギラギラもガムシャラも見えた敗戦は、勝利が近いと思わせた。 =敬称略=
 (編集委員)

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2022年8月17日のニュース