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【内田雅也の追球】“ムーンライト”の警句 「次がある」と思っていては…

[ 2022年6月30日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神2―4DeNA ( 2022年6月29日    横浜 )

<D・神>4回、マウンドのガンケル(中央)のもとにナインらが集まる(撮影・会津 智海)
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 映画『フィールド・オブ・ドリームス』に登場するアーチー“ムーンライト”グラハムは実在した選手だ。大リーグで「試合1、打席0」。この日はその唯一出場した日だった。1905年6月29日、ニューヨーク(現サンフランシスコ)・ジャイアンツが11―0とリードした9回裏、右翼守備に就いた。打球は飛んで来なかった。

 出場はそれっきりだった。「一度ぐらいは打席から投手をにらみつけたかった」。ただ、当時はまだ「次がある」と思っていた。「人は最も大きなチャンスがきているというのに、そのことに気がついてないものだよ」

 このセリフは今の選手たちへの警句になる。野球は人生に似る。長い人生で野球ができる期間は短い。そして試合では好機を逃せば次はない。

 この夜の阪神打線だ。相手の倍10安打を放ちながら序盤の2点止まり。いつでも崩せる、次がある……と思っていては試合が終わってしまう。

 3回表1死一、三塁では佐藤輝明が初球を凡飛(遊飛)。大山悠輔は4打席の全ストライク9球を打ちに出たが、空振り4、ファウル1、凡打3、安打1。走者を置いた3打席は凡退だった。

 第1ストライクから果敢に打ちに出る姿勢はいい。0ストライク時の打率が最も高いのは古今東西変わらない。問題は1球で仕留める集中力だ。

 一方で先発ジョー・ガンケルは1回裏は9球で2点、4回裏は10球で2点を失った。球をそろえ過ぎるという来日当初の悪い癖がよみがえる。2―2同点の4回裏はともに初球、続けて犠飛を上げられ決勝点を失った。リードする長坂拳弥とともに反省材料になる。

 初球(および第1ストライク)を巡る攻防が明暗を分けた。

 史上「最早」で梅雨が明け、暑い夏がやって来た。開幕からチームを支えてきた投手陣にも疲れが見える。先発陣は3試合続けて6回もたず4失点以上している。夏は打ち合いで勝ちたい。

 山本泰寛が本塁打を放ち、島田海吏が猛打賞に好走塁、盗塁と「今」を必死に生きている。あの姿勢だろう。

 グラハムはマイナー時代、遠征先ホテルで暑く寝苦しい真夜中、月夜の外に出て“ムーンライト”のあだ名がついた。この夜は新月。横浜に月はなかった。=敬称略=(編集委員)

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