【内田雅也の追球】今後も重要な「シャパ」 15三振惨敗の阪神打線が心に留め置きたい言葉

[ 2021年8月26日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神2-10DeNA ( 2021年8月25日    京セラD )

<神・D(20)>試合前ベンチの中で円陣を組む阪神ナイン (撮影・奥 調)
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 阪神の公式インスタグラムで試合前に組んだ円陣の動画が配信されていた。声出し担当は熊谷敬宥だった。

 「昨日はナイスゲームでした」と8―2で快勝した前夜の試合を振り返ったうえ「気になった事」として「大量得点の翌日は打てない」と球界のジンクスをあげた。原因を「いろいろ調べた」そうで「それは気の持ちようだということが分かりました」として、こう言った。

 「ですから、気持ちで迷ったらシャパを忘れずにいきましょう!」

 謎の言葉「シャパ」はチーム内で使われる隠語のようなものか。北條史也が撮影者を振り返り「シャープでコンパクト」と説明していた。

 「鋭く、小さく」で昔からよく言われる、大振りを戒める言葉を、略しているわけだ。確かに大勝でスイングが雑になってはいけない。大切な警句だった。

 ところが、結果は今季最多15三振を喫しての完敗だった。

 試合の流れからすれば、0―5の3回裏、2点を返した後の3―5番凡退が痛かった。ジェリー・サンズ、大山悠輔が続けて直球を見逃しての三振は何だったのだろうか。追い込まれてなお変化球を待つ狙いに何か根拠があったのだろうか。

 直後の4回表、2死無走者からの3失点で反撃意欲もしぼんでしまった。4―8回は5イニング続けて3者凡退と実にあっさりしていた。

 ストライクを見逃し、ボール球を振る。この大差のついた展開で分からないでもないが、どうも雑に映った。打線は水物とはいえ、今後に悪影響が出ては単なる1敗ですまなくなる。各打者はもう一度「シャパ」を思い出したい。

 文豪アーネスト・ヘミングウェーは短編『敗れざる者』=『男だけの世界』(新潮文庫)所収=で年老いた闘牛士の不屈を描いている。剣で牛を仕留める時の心得にスペイン語で「コルト・イ・デレチョ」とあった。「瞬時に、まっしぐらに」と訳がついている。

 闘牛士の心の内が書かれている。<ときどき何かを思いついても、それを表す用語が浮かばずに、うまく考えがまとまらないこともある。直感と知識は自動的に働くのだが、頭脳はゆっくりと言葉の形をとって働くのだ>。それが「コルト――」というわけだ。

 野球にも通じている。投球を打撃する際、考える以前に勝手に体が動く「筋肉記憶」(マッスルメモリー)はむろん重要だ。加えて、考えや思いをまとめるにはやはり言葉がいる。人間は言葉でものを考えるのだ。

 その言葉とは「シャパ」で結構、上等ではないか。きょう26日の試合前も声高に言いたい。いや、今後も忘れたくない打撃姿勢である。 =敬称略= (編集委員)

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2021年8月26日のニュース