【内田雅也の追球】生きていた「ヤグ、モルラヨ」 日韓の明暗分けた守備の差 因縁の「8回」に決勝点

[ 2021年8月5日 08:00 ]

東京五輪第13日 野球準決勝   日本5―2韓国 ( 2021年8月4日    横浜スタジアム )

<日本・韓国>韓国に勝ち、喜ぶ山田(左)と坂本(撮影・小海途 良幹)
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 日本が8回裏にあげた決勝点は韓国守備の乱れをついたものだった。1死一塁からの一ゴロで近藤健介が一塁で生きた。3―6―1と転送され、一塁ベースカバーの投手・高祐錫(コ・ウソク)の足がベースから離れたのだ。

 2死一塁となり、捕手・梁義智(ヤン・ウィジ)が投球をそらして走者二進(記録は暴投)。村上宗隆申告敬遠となり、さらに甲斐拓也が四球でつないで満塁。山田哲人が初球の速球を左中間に運び、走者一掃で試合を決めたのだった。

 前回2008年北京五輪の準決勝で、韓国・李承(火ヘンに華)(イ・スンヨプ)に決勝弾を浴びたのが8回裏だった。監督・稲葉篤紀は当時右翼手としてその打球を見送っている。13年前の悪夢を晴らす8回裏だった。

 また、2000年シドニー五輪3位決定戦で松坂大輔が李承(火ヘンに華)に決勝二塁打を浴びたのも8回だった。韓国では国際試合において「約束の8回」と言われていた。日本にとっては「悪夢の8回」で、今回ようやくぬぐい去ったことになる。

 それにしても、よく、2死からつないだ。「野球は2死から」という標語は韓国でも使う。

 そしてまた韓国では「ヤグ、モルラヨ」と言う。「ヤグ」は野球、「モルラヨ」は分からないといった意味で「野球は(何が起きるか)分からない」というわけだ。

 1996―99年、中日に在籍した韓国球界の至宝、宣銅烈(ソン・ドンヨル)に聞いた。よく交流のあった韓国記者団からも聞いた。「日本でも同じように言うのか?」と問うので、巨人V9監督・川上哲治の言葉「勝負はげたを履くまで分からない」を紹介した。彼らは巨人9連覇を知っていた。

 そのV9の礎となったのは堅い守りだ。打線は水物で計算が立たない。投手を含めた守備を固め、勝つ確率を高めたのが川上の野球だった。

 ならば、日本はよく守った。2回表は一、二塁間のゴロを浅村栄斗が逆シングル横っ跳びで好捕した。3回表は山田が二塁ベース寄りのゴロを好捕した。事前の位置取りも当たった。ともに回の先頭打者で出塁を許せばピンチを背負っていた。

 この夜は二塁手・菊池涼介を先発から外し、指名打者だった山田が二塁に入った。浅村もシーズン中の二塁でなく一塁でよく守っている。4回表には2死から甲斐が捕邪飛をカメラマン席に激突しながら好捕した。

 日本の失点も堅守が乱れたのが一因だった。6回表先頭の朴海旻(パク・ヘミン)の左前打を左翼手・近藤がはじいて無死二塁。記録は安打と失策で、日本にとって今大会初失策だった。2本の適時打を浴び同点とされたのだった。

 過去幾度の激闘を繰り広げた日韓戦はやはり熱い激闘となった。北京での悪夢には、守備の乱れがからんでいた。この夜も守備の差が明暗を分けたことになる。年月と海峡を越え、「ヤグ、モルラヨ」の格言は生きていた。 =敬称略= (編集委員)

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