大谷翔平の17秒3より速かった歴代最速の男

[ 2021年4月23日 06:30 ]

現役時代のアダム・ロサレス
Photo By スポニチ

 ある選手の存在が、ふいに思い出された。22日、エンゼルスの大谷翔平が日米通算100号アーチを架けた。節目の数字に加えて、一部で注目されたのがベース一周のスピードだった。

 今季メジャー最速となる17秒3。投打だけでなく、2桁以上の盗塁を稼ぎ出す俊足にはみんなが注目していた。それを裏付ける数字に日米メディアが食いついた。大リーグ公式データ分析システムのスタットキャストでは、打者が本塁打した際のダイヤモンド一周さえも数値化される。多くのファンが沸き立つ中、そんな選手もいたな、と郷愁にかられた。

 アダム・ロサレス内野手。今では現役引退し、アスレチックス傘下ルーキー級チームの監督を務める。彼こそ、本塁打の後のベースランニングで誰よりも輝いたユーティリティ・プレーヤーだった。

 とにかく本塁打しても全力疾走。会心の当たりにも、打球の行方など見もせず、全力疾走を心掛けた。

 メジャーのプレーのほとんどを数値化するスタットキャスト導入後、柵越えの本塁打を放った後、最速でダイヤモンドを一周した選手こそロサレス。17年6月にマークした15秒88というタイムこそ、歴代最速として今もひそかに輝く数字だ。

 プレーを振り返れば、ロサレスは本塁打後の全力疾走をモットーとしたような選手だった。内野を主戦場としたユーティリティ・プレーヤーとして、通算48本塁打。一方で、柵越え本塁打のダイヤモンド一周最速タイムのベスト10は、ほとんどがロサレスで占められている。

 インディアンス時代の18年、キャリア最後の本塁打を放った。残したダイヤモンド一周のタイムは16秒23。自己ベストにはわずかに届かなかったが、当然そのシーズンの最速タイムだった。残したコメントは「若い頃より遅くなったのかな」。ジョークの一種と受け止めながら、スタットキャスト導入前のタイムと比べると、確かに遅くなっていた。タイムが着目される前から、ロサレスは常に全力疾走だったのだ。

 大谷のタイムは確かに豪快なアーチの余韻を楽しむには、短かったのかもしれない。しかし、世にはそれ以上に急ぐ必要の無いダイヤモンドを駆け抜けた選手がいた。現在はアスレチックス傘下新人級の監督を務めるロサレス。常に泥くさく、全力でプレーした彼の精神を引き継ぐような若手育成を強く望む。(記者コラム・後藤 茂樹)

続きを表示

2021年4月23日のニュース