【内田雅也の追球】難敵・森下攻略の「3秒36」 パワーの佐藤輝が見せたスピードと凡打疾走の心

[ 2021年4月15日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神6-0広島 ( 2021年4月14日    甲子園 )

<神・広(4)>2回2死一塁、梅野の遊ゴロで田中広(右)のエラーで佐藤輝は二塁に進む(中央は菊池涼) (撮影・奥 調)
Photo By スポニチ

 大物新人、阪神・佐藤輝明の甲子園初本塁打は「打球速度168キロ、飛距離125メートル」だった。今年から甲子園では阪神選手の本塁打を放った際、高性能弾道測定器「トラックマン」のデータが電光板に表示される。パワーを示す数字である。この時はカーブに泳ぎながら右翼席に運んだ数値で、打球速度はまだまだ上があるだろう。

 もう一つ、スピードを示す数字「3秒36」を書いておきたい。昨季、今季と過去5試合0勝4敗の難敵、広島・森下暢仁から先取点を奪ったのは佐藤輝の走力だった。

 2回裏2死から四球(14試合ぶり2個目)を選んで出塁。続く梅野隆太郎のゴロを遊撃手・田中広輔がはじき、二塁へトスした。この時、足からすべり込んだ佐藤輝は二塁でセーフとなったのだ。記録は田中に失策となった。すぐ拾いなおしたため、アウトと思ったので少なからず驚いた。

 阪神球団の公式動画配信サービス『虎テレ』で再生し、手もとのストップウオッチで計った。梅野が打った瞬間から二塁到達まで3秒36。素晴らしいタイムだった。

 スピードはもちろん、一塁で第2リードをシャッフルでしっかり取り、早いスタートを切っていたことが分かる。

 この凡打疾走は何も自分が打ったゴロばかりではない。他人が打ったゴロでも生きようとする姿勢も含まれる。監督・矢野燿大は就任時から、打たれた投手が走るバックアップとともに「タイガースの野球」として訴えてきた。ひたむきさや不屈の精神である。それは心と言い換えてもいい。

 これで2死一、二塁とつなぎ、続く中野拓夢の右前打で生還した。この時も二塁から6秒51の疾走で強肩・鈴木誠也の好返球をしのいだのだ。

 こうした間一髪のプレーをアメリカで「バンバン」と呼ぶ。バンと捕ったりタッチしたりする音と、バンと塁を踏む音を合わせた擬音語だ。バンバンのコンマ何秒を制するのは、スピード以上に準備や力走する姿勢、つまり心による。

 実は2月のキャンプ中にも佐藤輝を題材に凡打疾走の重要性を書いた。ジョージ・ブレットや金本知憲を例に、本物のスターとなるには必要な姿勢だと書いた。

 大リーグ通算3154安打の左打者ブレット(ロイヤルズ)は引退を前に「現役最後の打席で平凡なセカンドゴロを放ち、間一髪アウトになりたい」と語っていた。

 数々の記録を残した金本が引退会見で「誇り」と語ったのは連続1002打席無併殺打だった。自分はアウトで打率は下がるが、全力疾走で併殺を阻めばチームのためになるという姿勢だ。

 今の佐藤輝はどうか。5回裏、目の前に転がったボテボテの捕ゴロでも一塁まで4秒19で駆け抜けていた。立派な疾走だった。

 もちろん、4番の大山悠輔も外国人のジェフリー・マルテも……誰もが疾走している。昨季まで、連敗や不調時でも怠らなかった。そんな積み重ねが今の首位快走を呼んでいると思いたい。野球の神様は見ていた、と書いておく。=敬称略=(編集委員)

続きを表示

「始球式」特集記事

「田中将大」特集記事

2021年4月15日のニュース