気がつけば40年(12)84年ロス五輪公開競技の野球 社会人と大学生が同じ緊張を共有し金メダル
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【永瀬郷太郎のGOOD LUCK!】1984年、現地時間8月7日。いや明けて8日になっていた。米カリフォルニア州ロサンゼルス、ドジャースタジアムのセンターポールに日の丸が翻る。松永怜一監督は感無量の面持ちで見上げた。
「長い野球生活の中でも、こんな感激を味わったのは初めて。最高です。意外性のあるチームで、若さと爆発力があった。これが日本人の精神野球。大観衆の中で若い選手が萎縮しないでよくやってくれました」
試合後、日本人記者団で3人だけ許されたフィールド取材。幸運にも歓喜の瞬間に立ち会わせてもらった。国際大会、しかも五輪。日の丸を誇らしく思った。
私にとっては巨人、西武による台湾のエース・郭泰源争奪戦マークで急きょ巡ってきた五輪取材。野球競技の日本もそうだった。アジア予選で敗れ、出場できないことになっていたのである。
1964年東京五輪以来20年ぶりに公開競技として実施された野球。当初は6カ国・地域で行われる予定だった。アジアは2枠。予選を兼ねて韓国ソウルで行われた1983年9月のアジア大会は日本、韓国、台湾が5勝2敗で並び、3チーム同時優勝となった。その中で韓国は1982年の世界野球選手権に優勝して出場権を持っていた。
残るは1枠。日本は台湾と五輪代表決定戦を戦い、0―1で敗れた。池田親興(日産自動車)と郭泰源の息詰まる投手戦。0―0で迎えた9回裏、趙士強に左中間への一発を浴び、サヨナラ負けしたのである。
ところが、1984年5月。アマチュア世界最強のキューバが五輪出場を辞退した。東西冷戦の時代。米国など西側諸国が1980年モスクワ五輪をボイコットしたことへの報復だった。
のちに大リーグのコミッショナーになるピーター・ユベロス大会組織委員長はキューバの代わりにドミニカ共和国を選ぶと同時に、出場枠を6から8に拡大することを提案した。初の商業五輪。野球を盛り上げるためだ。日本、カナダ、オランダの3カ国が候補に挙がり、日本とカナダが投票で選ばれた。
急きょ出場が決まった日本は平均年齢27・7歳のオール社会人で臨んだアジア大会の反省から社会人と大学生の混成チームにすることを決めた。監督は法大、住友金属、さらに1977年インターコンチネンタルカップ日本代表で指揮を執った松永氏に要請し、メンバーは社会人13人、大学生7人。平均年齢22・5歳の若いチームを編成した。
いかんせん急ごしらえのチーム。7月4日に代表メンバーが発表されてすぐ大学生は日米大学野球で渡米した。のちに大リーグ通算583本塁打を放つマーク・マグワイアやシェーン・マックを擁し、そのまま五輪代表となるチームに1勝6敗と完敗。そのまま居残って社会人が25日にロス入りするまでの数日間は練習場の現地スタッフとソフトボールを楽しんだ。広沢克己(明大)は打ちまくって「スター」と持ち上げられたという。
社会人が合流してからは空気が一変。広沢は松永監督から「足を上げずに打て」と一本足打法を封印された。日米大学野球では19打数3安打、打率・158。明大の島岡吉郎監督に国際電話で了解を取り付けたと言われれば従うしかなかった。
広沢は鈴木義信コーチとマンツーマンで夜も選手村で振り込んだが、予選リーグ初戦の韓国戦は出番がなかった。予選リーグで最重要視された一戦。大学生で先発出場したのは6番DHの秦真司(法大)一人だった。
試合はのちに中日でプレーするエース・宣銅烈から5回に福本勝幸(東芝)の中犠飛で1点を先制し、9回に1点追加。投げては吉田幸夫(プリンスホテル)―宮本和知(川崎製鉄水島)―伊東昭光(本田技研)のリレーで韓国打線を2安打に封じ、2―0で快勝した。
広沢は続くニカラグア戦で初めて8番DHに入り、右越え本塁打を含む5打数3安打4打点。19―1の大勝に貢献した。次のカナダ戦では6番に上がり、2試合連続本塁打を含む3打数2安打1打点と気を吐いた。
準決勝の台湾戦では5番に昇格。初回2死一、三塁、痛烈なゴロが郭泰源の右足首を直撃した。打球は一塁方向に転がってアウトになったが、このボディーブローが効いた。5回、4番の荒井幸雄(日本石油)の右越え適時三塁打で1点先制。台湾のエースはここでマウンドを降りた。
6回に追いつかれ、1―1のまま延長戦に突入。10回2死二塁から荒井の放った二遊間のゴロが2バウンド目で大きく弾み、センターへ抜けた。サヨナラ勝ちで決勝進出である。
選手村では社会人は社会人、大学生は大学生同士とはっきり分かれていたが、ここまで来たら社会人も大学生もない。米国との決勝前夜、社会人は主将の熊野輝光(日本楽器)を中心に集まって「大学野球のカタキを取ろう」と盛り上がった。
決勝戦の試合前、超満員のスタンドからUSAコールが鳴り響く中、ガムをかんで陽気に振る舞う米国チームを見て、松永監督が選手に言った。
「君たちがあんなふうにふざけていたら、絶対に負けるぞ。緊張していいんだ。緊張しないとできないことがたくさんあるんだ。緊張は君たちの敵じゃない」
社会人も大学生も同じ緊張を味方に付けた日本。1点先制された直後の4回、荒井、広沢の連続適時打で逆転した。8回には広沢が左中間スタンド中段へ試合を決める3ラン。日米大学野球では全く打てなかったジョン・フーバーのカーブを捉えた。金属バットとはいえ大会3本目、その弾道、飛距離。今でもしっかり目に焼き付いている。
投げては初戦の韓国戦とは順番が逆の伊東―宮本―吉田のリレーで強力打線をかわして6―3。野球発祥の国で開催国でもある米国を破り、世界の頂点に立ったのである。
野球以外の競技も取材した。飛ぶように走るカール・ルイス、陸上女子3000メートルのゾーラ・バットとメアリー・デッカー女の争い、女子マラソンのガブリエラ・アンデルセン、男子体操個人総合の具志堅幸司、鉄棒10点満点の森末慎二…。
それぞれ心を動かされたが、私にとっては公開競技でも野球が一番だった。緊張と歓喜を共有させてもらえたからだと思う。(特別編集委員)
◆永瀬 郷太郎(ながせ・ごうたろう)1955年9月生まれの64歳。岡山市出身。80年スポーツニッポン新聞東京本社入社。82年から野球担当記者を続けている。還暦イヤーから学生時代の仲間とバンドをやっているが、今年はコロナ禍でライブの予定が立っていない。
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