【内田雅也の追球】快投快打呼んだ「快テンポ」 阪神・ガルシアの好投を導いた捕手・坂本

[ 2020年8月27日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神11-3中日 ( 2020年8月26日    甲子園 )

<神・中(11)>2回無死、高橋の投直を捕球するガルシア (撮影・奥 調)
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 オネルキ・ガルシアが阪神に来た昨年2月の沖縄・宜野座でのキャンプ中、編成部国際担当部長の三宅徹が小さな声でつぶやいた。「坂本と呼吸が合うようだね」

 獲得の担当者として気になっていたのだろう。三宅はよく観察し、見守っていた。「呼吸と言うか、相性と言うか。投げやすいように感じる」

 捕手は梅野隆太郎も原口文仁もいたが、坂本誠志郎とのコンビに好相性を見て取っていたようだ。小声で言ったのは、現場の監督・矢野燿大やコーチ陣への余計な口出しとならぬよう、言葉を慎んでいたと感じた。その当時、原稿にするのは控えておいた。

 ただ、ベテラン外国人スカウトの直感は的を射ていたようだ。この夜のガルシア好投を引き出したのは坂本だったと言える。

 阪神には今やリーグを代表する正捕手・梅野がいる。坂本の先発マスクは今季3度目。ガルシアと組むのは開幕3戦目、6月21日の巨人戦以来2度目だった。

 際だっていたのはテンポである。何より投球間隔が短かった。坂本は捕球するとすぐに返球し、素早くサインを出した。早く投げたがるガルシアに応えるようなリードを心がけているようだった。

 この早いテンポは大切なことだ。たとえば、野茂英雄がドジャース入りした1995年2月、フロリダ州ベロビーチのキャンプで目の当たりにしたのは、日本では見たことがない時間制の投球練習だった。コーチが事前に6分とか8分とか、ブルペンでの投球練習の時間を指示する。当初は野茂も戸惑った。日本人記者団も「これが大リーグか」と取材した。

 投手コーチ・デーブ・ウォレスは「ブルペンでのリズムはそのまま試合に通じる。特に先発投手はピッチを速くして、試合をつくりたい」と説明した。

 ガルシアが直近3試合ですべて失点していた初回も慎重になり過ぎず、早いカウントから勝負球を要求し、1四球だけで無難に立ちあがった。

 投球数は6回で90球だった。序盤に球数が多かったガルシアとしては少ない方である。ストライクをどんどん投げ込む姿勢と配球が見える。

 ガルシアが生まれたキューバには「ホームベースは家の玄関」という言葉がある。攻撃野球で「家族を守るため侵入者は通さない」と打ちに出る姿勢を説く。社会人時代、全日本でキューバと対戦した興南高監督・我喜屋優が著書『逆境を生き抜く力』(WAVE出版)に書いている。逆に投手は「ホームベース上に投げろ」という真っ向勝負の姿勢を意味する。

 また、ガルシアは大リーグ・デビュー戦で苦い経験をしている。ドジャース時代の2013年9月11日、ダイヤモンドバックス戦。最初の打者に1球もストライクが入らず四球。監督ドン・マッティングリーからすぐ降板を命じられた。ストライクを投げる、という基本姿勢が身にしみた。

 5回表の失点は詰まらせた飛球が二塁後方に落ちた不運。反省は6回表先頭の四球だけだ。

 快テンポで守る時間は短く、打線のリズムも良くなった。6回裏、陽川尚将の逆転弾が出た時はまだ午後7時半すぎ。短夜の快投快打だった。=敬称略=(編集委員)

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2020年8月27日のニュース