【内田雅也の追球】一戦必勝の「真実」「本性」――苦悩と窮地の阪神が見せた姿勢

[ 2019年7月11日 09:30 ]

セ・リーグ   阪神1-4巨人 ( 2019年7月10日    甲子園 )

<神・巨13>6回1死、二塁打を放つ大山(撮影・後藤 正志)
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 19世紀の米国女性詩人、エミリー・ディキンソンは「わたしは苦悩の表情が好き。なぜなら、それが真実の表情だから」と書いた。

 野村克也は<人間は窮地に追い込まれるほど本性が現れる>と書いた=『弱者が勝者となるために――ノムダス』(ニッポン放送プロジェクト)=。そして<9回2死、最後の打者となった時、本性が見える>。

 この夜、阪神最後の打者となる原口文仁は遊ゴロが転がると、やや下を向き、懸命に一塁まで駆けていた。

 敗戦を見届けると、監督・矢野燿大を先頭に、一塁ベンチ前に整列した猛虎たちは苦しそうな表情で頭を下げた。

 これが真実や本性ならば、阪神にはまだ救いがある。何も全力疾走やスタンドへの一礼ではなく、その苦悩の表情に反骨を見たからである。

 列島各地で高校野球地方大会が行われている。甲子園を目指す壮大なトーナメント戦である。1度負けたら終わりの明日なき戦いだ。

 こんな崖っぷちの試合を大リーグで「マスト・ウィン・ゲーム」(must win game)と呼ぶ。助動詞マスト(must)を使い「必ず勝つ(勝たねばならない)試合」といった意味で使う。
 この夜の阪神である。勝てば5割、負ければ借金2でオールスター・ブレークを迎える。上下の差は大きく、絶対勝利を誓っていたはずだ。

 日本ハム監督・栗山英樹はある年、先発投手が早々と降板し、惨敗した試合後、コーチらに「今日がもし、3勝3敗で迎えた日本シリーズ第7戦(つまり、明日なき試合)でも同じだったのか」と問いかけた。そして「毎日試合があるプロでも甲子園大会決勝戦のような気持ちで戦えるはずだ」と話している。

 先発ランディ・メッセンジャーが早々2回4失点で降板した試合は、阪神にとって「明日なき姿勢」を問う試合だった。

 果たして、球児のような闘志は垣間見えた。6回表先頭を四球で出した守屋功輝が一塁走者を刺したけん制には殺意があった。6回裏、大山悠輔が緩いカーブを左翼線に引っ張ったライナーには4番の気概があった。7回表、能見篤史が岡本和真のバットをへし折って併殺打に仕留めた直球に誇りが潜んでいた。

 折り返し点とはいえ、すでに84試合を消化し、球宴明けは残り59試合しかない。さらに一戦必勝の気構えが必要となる。=敬称略=(編集委員)

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