【内田雅也の追球】“how”から“why”へ――突然乱れた阪神・青柳

[ 2019年6月30日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神1―6中日 ( 2019年6月29日    ナゴヤD )

2回1死一、二塁、阿部(左)に右前打を浴びる青柳(撮影・北條 貴史)
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 阪神・青柳晃洋はなぜ突然に乱れたのか。

 今季は抜群の安定感を誇っていた。だから、リーグ戦再開初戦の先発に起用されたのだ。

 1回裏は3者凡退で立ち上がり、2回裏も4番ビシエドを三振に取って1死。ここから連続四球を与えるとは、今季の青柳にはなかった制球難である。9回平均の与四球で言えば、昨季まで3シーズンで4・3個が今季は2・3個とほぼ半減していた。

 1死一、二塁から7、8番に短長打されて2失点。さらに不運な内野安打で満塁となり、2安打と内野ゴロの間に計5点を失った。

 中日には前回対戦の4月29日、同じナゴヤドームでプロ初完封を飾っていた。前回と何が違ったのだろうか。

 目についたのは1回裏、中日各打者の姿勢である。平田良介が1、2球目(見送り)、京田陽太は1球目(空振り)、大島洋平は1、2球目(見送り)と、3人がそろって計5度もセーフティーバントの構えをしてきたことだ。バント処理・一塁送球に難のある青柳への揺さぶり、陽動策である。少なくとも前回零敗の中日が同じ轍(てつ)は踏まないとする気概は見てとれた。結果としては打ち取ったが、心理面に重圧をかける効果があったのか。因果関係はあるのだろうか。

 生物学者の福岡伸一が<how(いかにして)にはなんとか答えられても、why(なぜ)には決して答えることができない>と書いている。映画『海よりもまだ深く』(2016年、監督・是枝裕和)のパンフレットにあった。専門は分子生物学で、細胞や遺伝子を細かく分解し、異常や病気が起きる因果関係を追う分野だ。

 <本当は、whyの疑問に答えたい>という根源的な欲望はなかなかかなえられない。では、どうするか。<howの疑問に答え続けていく。howの疑問に十分答えないうちには、決してwhyの疑問には到達できないはずだから>。

 野球も同じではないだろうか。青柳が“なぜ”乱れたのかを答えるのは難しいが“いかにして”は分析できる。

 投手に望まれるのは<何千回も繰り返してきた投球フォームをいつも通りに行うこと>と心理学者マイク・スタドラーが『一球の心理学』(2008年、ダイヤモンド社)で指摘している。近年の言葉で言えば再現性である。

 だが<ボールをリリースするタイミングが1000分の1秒速くなりすぎただけでも(中略)不正確な球につながる>という極めて繊細な世界である。

 それでも今は精密な動画も、コーチ陣の見た目も、そして自身の感覚もある。まずはhowに答え、深みあるwhyに近づきたい。=敬称略=(編集委員)

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2019年6月30日のニュース