【内田雅也の追球】阪神「厘差」浮き出た敗戦 落ち込まず努力、工夫を

[ 2016年8月29日 15:23 ]

<神・ヤ>5回表無死、坂口の打球を失策する上本

セ・リーグ 阪神1―3ヤクルト

(8月28日 甲子園)
 凡失と書くが、何も懸命にやっていないわけではない。5回表、先頭打者のゴロをはじいた阪神三塁手・上本博紀の失策である。三遊間寄りだったが、難しい当たりではなかった。

 「どうもこうも……イージーですよ」と敗戦後、内野守備走塁コーチ・久慈照嘉も言った。

 見た目には焦りすぎと映った。2回表1死一塁で三ゴロをはじいたのも慌てていたように見えた。ふだん守る二塁との感覚の違いもあろう。距離感か。打者に近い三塁は急がなくても一塁送球は間に合う。久慈は「いや、そんな言い訳通じませんよ」と厳しかった。「岩貞に申し訳ない。今日はあれ(失策)で負けたようなものですから」

 確かに、先頭打者を生かしたことで岩貞祐太の投球は切羽詰まった。1回裏の1点、「スミ1」を守り続けてきていた。連敗阻止への責任感も重圧もあったろう。

 後に自身の暴投も絡んだ。ちなみに、このチーム暴投数47もセ・リーグ最多だ。4安打を浴び、3点を失った。逆転を許して降板となった。

 失点はすべて自責点ではない。以前も書いたが、阪神の非自責点(つまり失策絡みの失点)は56で今もセ・リーグ最多だ。ミスが失点につながる傾向が浮き彫りとなる。投手は失策の後こそ踏ん張る。すると、野手は打って取り返す。そんな好循環こそ望ましいのだが、今はかなわない。

 もちろん、野球は失敗のスポーツである。打率は3割で一流だが、10本中7本は失敗なのだ。

 ただし、守備率は9割8分~9分を争う。今季のセ・リーグで言えば、最高が対戦相手だったヤクルトで9割9分、最低が阪神で9割8分3厘(この項は26日現在)。両者7厘の差と言えば、守備機会1000回のうち7回、阪神の方が余計に失策するという意味だ。わずかの差のようだが、長いペナントレースでは物を言う。この厘差を埋めるために努力も工夫もする。技や体だけでなく、心も強くするのである。落ち込んでいる暇などない。

 アメリカでは「ミスをするのは選手。それを許すのはファン」と言われる。日本も同じだ。

 夏休み最後の甲子園だった。スタンドで目立った子どもたちの目に、猛虎の戦いはどう映ったか。しかし、雄姿を見せるのはこれからである。失敗や敗戦の後も立ち上がり挑戦する姿が問われている。 =敬称略=
 (編集委員)

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