【内田雅也の追球】阪神・能見 味方のミスを帳消しにする力投

[ 2016年8月11日 08:30 ]

<広・神>3回2死一、二塁、空振り三振に倒れる下水流。投手・能見

セ・リーグ 阪神2―1広島

(8月10日 マツダ)
 昨年9月に他界した当時阪神ゼネラルマネジャー(GM)・中村勝広は酔えば、電話魔になった。先輩の江夏豊も「勝から突然電話があってよ。“あの時はすみません”って、何度も昔のエラーの話をするんだよ」と笑っていた。中村が現役時代、二塁手で失策し、試合後、江夏の前で涙をこぼしたそうだ。「それを懐かしむことができるのは、いい野球人だよな」と話していた。

 自著『エースの資格』(PHP新書)でも<エラーを巡る思い出がないような間柄では寂しい>と書いている。<誰しもミスしたくてやっているんじゃない。(中略)マウンド上のピッチャーはわからないといけません。実績と経験がある人なら、なおさらです>。

 何度も書くが、野球は失敗のスポーツである。問題はミスや失敗をした後である。

 投手と野手の信頼関係は、互いに助け合うことで成り立つ。野手(打者)は投手が不調なら守り、打って助ける。逆に投手は打線が不調ならば抑える、そして失策などミスをした後は何としても切り抜けるのである。

 この夜、7回2死まで1失点で7勝目をあげた阪神・能見篤史で特筆したいのは、味方守備陣のおかしたミスの後を締めた投球である。

 1回裏、自らのボークで1点を失い、なお2死二塁。新井貴浩の三ゴロを北條史也がお手玉して(失策)一、三塁となった。このピンチで鈴木誠也を三ゴロに切った。

 3回裏は1死からルナの三塁内野安打は北條のミスとも言えた。この後1死一、二塁となったが鈴木、下水流昂を打ち取り無失点でしのいだ。

 前回登板の3日、DeNA戦(横浜)は味方のミスから崩れていた。1回裏、二ゴロを荒木郁也がトンネル(失策)。直後に連続本塁打を浴び、大量4失点(自責点2)していた。

 試合後、能見が漏らした言葉が印象的だった。「野手の方に悪いことをした」。荒木のミスを余計に目立たせた投球を悔いていた。そんな反省もあったろう。ミスの後を引き締めた投球は見応えがあった。

 今季、阪神投手陣の非自責点(つまり失策絡みの失点)はセ・リーグ最多の43。最少のヤクルト(19)や広島(25)、巨人(29)とは差がある。

 投手と野手。助け、助けられの良好な関係ができれば、チームはうまく回る。 =敬称略= (スポニチ本紙編集委員)

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2016年8月11日のニュース