中日・荒木が見抜いた“とがった口” 相手の野球人生をも左右する洞察力

[ 2016年7月9日 12:37 ]

渡辺コーチ(左)とタッチを交わす中日・荒木

 質問の意味が理解できなかった。中日―広島戦の取材で訪れた富山アルペンスタジアム。久々に再会した広島・河内広報が、何とも不思議な問いを投げかけてきた。

 「今、僕の口、とがってないですか?」

 付き合いは長いが、常に顔を注視している訳ではないし、何より「口がとがる」の表現自体も、極めて分かりづらい。「はい?」と発するのがやっとの記者に、広報は満面の笑みで種明かしをしてくれた。

 話は開幕直後にまで、さかのぼる。昨季限りで現役を引退し、スタッフとして迎える初めてのシーズン。初対戦の際、各チームのベンチ前まで、あいさつに出向いた。その際に中日・荒木にかけられた言葉だ。広報の記憶をもとに再現すると次のようになる。

 荒木「今年から広報になったんだって?」

 河内「はい。よろしくお願いします」

 荒木「そっか。現役終わったんだったら、1つ教えてあげるよ」

 河内「何ですか?」

 荒木「お前、けん制するとき、口がとがってたよ」

 河内「…」

 以来、顔を合わせた時のあいさつは「口、とがってるよ」「とがってますか?」なのだという。

 ちなみに広報自身、その自覚はない。果たして実際、けん制時に口はとがっていたのか?荒木に真偽のほどを聞いた。

 「ホント。微妙にだけどね。一塁に出たら、そんなところばかり見てるから」

 2人の盗塁の“直接対決”は、いずれも04年で3回。成功は1度だけだったが、広報は「常に走られていた気がする」とマイナスの印象を残している。左投げだけに、真正面から受ける視線はこの上なく不気味だったに違いない。

 「無くて七癖」。クセがないと思っている人でも7つはあるという言葉である。投手の球種によるクセを見抜く力に長ける、ある球団のスコアラーにコツを聞いた事がある。「相手もプロだから隠そうと思って努力しているから探そうと思っても、なかなか見つからない。だから最初は“何となく”で見る。そうすると景色の中に違和感が出てくる。グラブのふくらみ方なのか、位置なのか。ユニホームのしわの寄り方なのか。そこから探っていく」。集中して見る荒木のケースと、感覚的にとらえるスコアラーでは形こそ違うが、深い洞察力はまさにプロの技術。力と力の勝負に頭脳的な側面が加わるから、野球は面白みを増す。

 現役最多369盗塁(7月8日現在)を誇る荒木からの思いもかけない“指摘”。河内広報はうなるしかなかった。

 「もっと早く知っていたら、違った野球人生になっていたかも知れないですね…」

 つぶやいた口は、現役時と同じように微妙にとがっていた。(桜井 克也)

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2016年7月9日のニュース