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【コラム】西部謙司

「弱いふり」に見える戦い方

[ 2023年5月4日 10:30 ]

ACL決勝1stレグ、現地に駆けつけた浦和サポーター(AP)
Photo By AP

 ACL決勝の第1戦、浦和レッズはアル・ヒラルとアウェイで1-1のドロー。第2戦へ望みをつないだ。

 圧倒的に攻め込まれて先制されたときはどうなるかと思ったが、その後は落ち着いた守備で隙を見せず、興梠慎三のいくぶんラッキーなゴールもあって引き分けている。

 サウジアラビアの強豪アル・ヒラルに対して、浦和は4-4-2のコンパクトな守備ブロックで対抗。アル・ヒラルはボールを保持しながらも浦和のブロック内にはなかなか侵入できず、そうこうしているうちにカウンターを食らうという流れ。浦和の戦い方はカタールワールドカップでの日本代表と似ていた。

 今のところ、Jクラブや日本代表が「世界」と対峙したときの戦い方としては、このやり方が最も可能性がある。というか、たぶんこれしかない。

 ワールドカップ後の日本代表はボール保持を高めるチャレンジをしたが、ウルグアイ代表、コロンビア代表との試合ではあまり上手くいかなかった。横浜F・マリノスが数年前からやっている「偽サイドバック」を使ってみたが効果はなし。年季の違いもあるとはいえ、それ用のSBを起用したわけでもないので当然の結果ともいえる。保持に振り切るつもりはないようで、保持力アップに挑戦したにしては人選が中途半端だった。

 結局のところ、次のワールドカップもカタール大会と大差ない戦い方になりそうだ。また、それが現実的でもある。ベスト8を狙うということは、ほぼ確実に格上の強豪国を倒さなければならないわけで、これから多少保持力を高めたところで日本代表がボールを支配するような試合は想像しにくい。

 となると、日本代表が取り組む課題はほとんど決まっている。攻撃の武器が伊東純也、三笘薫の両翼なのは間違いなく、今のところそれしかない。切り札の2人をウイングバックに使うのは無駄なので、カタールW杯の5バックから脱却する必要がある。ウイングからのクロスボールを決められるCFの発掘、ミドルゾーンでのコンパクトな守備ブロックの構築が優先課題だ。

 ボールを保持して押し込むのではなく、相手に保持されながらできるだけ下がらずに踏みとどまり、機をとらえて両翼を使ってカウンターアタックを仕掛けるスタイル。つまり、ACLで浦和がアル・ヒラルに対して行ったプレーがそのままモデルになるわけだ。クラブでも代表でも、日本が世界一を狙うとしたら現状でやり方は限られている。

 弱者の立場のまま強者であり続けるのは難しいが、当面は「弱いふり」に見える不気味さを身に着けることだろうか。クラブワールドカップで南米勢が欧州勢を倒すときに見せる、「攻めさせてやっている」「守っているがボールを持ったら自分たちのほうが上手い」という雰囲気を醸し出せるようになるかどうか。レアル・マドリーを倒したときのボカ・ジュニアーズのリケルメのような個人、あるいはグループで、弱者に見えない気概を形に表せると一段階進化したことになると思う。(西部謙司=スポーツライター)

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