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【コラム】西部謙司

ビルドアップvsハイプレスのヒートアップ

[ 2022年2月24日 22:30 ]

2022年2月19日<名古屋・神戸>前半、先制ゴールを決め、喜ぶ名古屋・稲垣祥(右から2人目)
Photo By 共同

 数年前からJ1は自陣から確実にビルドアップしていこうとするチームが増えている。Jリーグだけでなく世界的な流れでもある。

 同時に、パスをつないでくる相手に対して、敵陣からプレッシングしてボールを奪いに行くチームもまた増えた。敵陣で奪えば崩す手前もなくチャンスを作れるから当然そうするわけだ。

 ビルドアップ対ハイプレスの攻防は今季も続いている。開幕戦では名古屋グランパスの先制点がヴィッセル神戸のDFからボール奪ったところから決まっていた。鹿島アントラーズもガンバ大阪のビルドアップのミスをついて勝ち越しの2点目をゲットしている。

 自陣からパスをつないでいく以上、こうしたミスによる失点はある程度覚悟しなければならない。それでもあえてビルドアップを諦めないのは、シーズン全体でみればメリットのほうが大きいからだ。

 昨季のトップ3(川崎フロンターレ、横浜F・マリノス、ヴィッセル神戸)はいずれもビルドアップ志向のチームだった。

 自陣でパスをつなごうとするチームには少なくとも1人の数的優位がある。守備側のGKが攻撃側の誰かをマークしない限り、攻撃側はGKがいるので必ず自陣では数的優位があるわけだ。この数的優位をどう生かしていくかがビルドアップの成否を握ることになる。

 開幕戦でサンフレッチェ広島と引き分けたサガン鳥栖は、GK朴一圭が味方のセンターバックと並んでパスワークに加わっていた。フォーメーションでいえば4-4-3だ。通常、フィールドプレーヤーの人数配分でフォーメーションは表記されるので、4-4-3という表記は見たことがない。だが、朴はディフェンスラインに入っているので、フィールド上の選手の並びは紛れもなく4-4-3なのだ。

 横浜FMのGK高丘陽平は2人のセンターバックの間にポジションをとっていたので、こちらのフォーメーションも3-5-3という、これまた見覚えのない表記になるのかもしれない。

 とくに朴はハーフウェイライン付近までポジションを上げて、そこからFWにきれいなクサビのパスを通していたぐらいで、従来のGKの概念からは明らかに外れていた。広島との開幕戦では二度ほどガラ空きのゴールを狙われていて、やはりリスクはある。ただ、鳥栖がこのやり方を変えることはおそらくないだろう。

 ボールをつなごうとするチームは、ここまで踏み込むようになっている。ならば、ハイプレスで奪おうとする側も負けていられないはず。あまりにリスキーなのもどうかとは思うが、互いにリスクを冒しての攻防に見応えがあるのは間違いない。(西部謙司=スポーツライター)

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