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【コラム】西部謙司

日本代表・第三形態

[ 2021年10月21日 07:30 ]

<W杯アジア最終予選 日本・オーストラリア(2021年10月12日)> 国歌を聴く日本代表 (撮影・光山 貴大)
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 10月のワールドカップ予選はサウジアラビアに負け、オーストラリアに勝利した。日本の順位は4試合終えた時点で4位だ。先は長いが、とりあえず窮地は脱した。

 オーストラリア戦では4-3-3にシステムを変更している。FW3人がペナルティーエリアの幅で守るリバプール方式だった。左右のウイングは外側へのパスラインを切る寄せ方をするのが特徴だ。中央にはMF3人が待ち構えている。そちらへ誘導して奪えば、前線に3人いるのでカウンターアタックの威力が出る。MFに田中碧、遠藤航、守田英正のボール奪取力と展開力に長けた3人を並べ、FWには浅野琢磨、古橋亨梧の俊足が台頭している。リバプール方式に合った人材といえる。

 プレスの際には外側で相手のサイドバックがフリーになっているので、FWが外へのコースを遮断するわけだが、相手も当然そこを狙ってくる。日本の失点はFKからだったが、そのFKを与えるきっかけは外でフリーの選手につながれ、そこからカバーが後手になって持ち込まれ、最終的にファウルで止めたものだった。陣形をコンパクトにできていなかったのでカバーリングが後手になっていた。

 失点につながった場面のように、いくつか粗はある。ただ、ほぼぶっつけでやって勝利に結びつけられたのだから、とりあえず成功といっていいと思う。

 懸念されるのは、ここから進歩しないのではないかということだ。

 森保一監督が就任したとき、日本代表は上々のスタートを切っている。中島翔哉、南野拓実、堂安律の2列目が躍動していた。しかし、やがて所属クラブで出場機会を失った中島がフェードアウトして、この第一形態の4-2-3-1は終了する。

 第二形態は今年の韓国との強化試合に快勝したチームだ。トップ下に鎌田大地、右サイドハーフに伊東純也が台頭し、南野は左サイドにポジションを変えている。こちらの4-2-3-1は第一形態より強度があり、素早い攻守の切り替えが強みだった。しかし、こちらもサウジアラビア戦で終息したとみていいだろう。

 第一形態、第二形態とも、最初の段階が最も良かった。普通は時間の経過とともに熟成されていくものだが、森保監督下のチームはどういうわけか劣化してしまうのだ。

 どんなシステムにも長所と弱点がある。第一形態ではフリーダムな中島が守備に入れない問題があった。第二形態ではコンディションが整わない、プレーのテンポを上手く変えられずに消耗する、相手の陣形変化に対応が遅いという課題があった。

 そして、いずれも課題を解決することなく違う形態に移行した。この流れからすれば、今回の第三形態も課題が浮き彫りになり、対戦相手にそこを狙われた時点で終了するのではないかと思う。

 予選は待ったなしの状況だ。代表チームにはほとんど練習時間がなく、課題を解決するのは難しい。だから、行き詰まったら形を変えるというのはたぶん正解なのだ。フランス代表もそれでネーションズリーグを制していた。ただ、何が問題でどうすれば解決できたのかは、技術委員会を中心に歴史の記憶として残しておくべきだろう。(西部謙司=スポーツライター)

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