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【コラム】西部謙司

今季UCLのベストゲーム マンチェスター・シティ対トッテナム

[ 2019年5月30日 11:00 ]

UEFAチャンピオンズリーグ   マンチェスター・シティー4-3トッテナム ( 2019年4月17日    エティハド・スタジアム(マンチェスター) )

ベスト4進出を喜ぶスパーズの選手たち
Photo By AP

 2018-19シーズンは名勝負が相次いだ。準決勝ではリバプールとトッテナムが、第2戦で感動的な逆転劇をみせた。ベスト4まで勝ち進んだアヤックスの溌剌としたプレーぶりも忘れがたい。その中でベストの1試合を絞るのは難しいが、最もスリリングだった準々決勝の第2戦マンチェスター・シティ対トッテナムをあげたい。

 開始早々の4分にシティが先制、2試合合計1-1としてスタートラインへ戻す。そこからは立て続けにゴールが決まる乱戦になった。ソン・フンミンが8分、10分にゴールしてスパーズが逆転すると、11分にシティのベルナルド・シウバが決めて2-2。21分にデブライネのクロスをスターリングが押し込んで3-2、シティのリードでハーフタイムを迎えている。

 シティの4-3-3に対して、スパーズはMFをダイヤモンド型に組む4-4-2でスタートしていた。ポチェッティーノ監督率いるスパーズは実にさまざまなフォーメーションを駆使するが、この試合でもシティの3点目が入った後に4-2-3-1へ変えている。開始時の4-4-2ではシティのサイドバックがフリーになりやすい。シティはそのマッチアップの齟齬をつき、右サイドバックのウォーカーのドリブルからチャンスを作っていた。そこで4-2-3-1へ変更。

 上手くいかなければ素早く対応できるのが今季のスパーズの特徴だが、フォーメーションがどう変わっても「スパーズらしさ」が一定であるのがポイントだ。どう変化しても、球際の強さ、パスワークの上手さ、個々の特徴を同じように発揮できる。考えられるかぎりのフォーメーションを使いこなすのは、それを重視しているのではなく、むしろフォーメーションは方便で、どうにでもなると考えているからだろう。

 3-2のリードで後半を迎えたシティは、もう1点とらなければならなかった。この時点で2試合合計3-3だが、スパーズにアウェイゴールを2点許している。シティは2点差勝ちがマストだった。そして58分にアグエロが待望の得点をゲットして4-2。ここでスパーズはまた変化する。今度は自分たちが点をとらなければ敗退の立場となり、4-2-3-1のままだが選手の位置を変えている。その甲斐あってか73分にCKからジョレンテのゴールで4-3(合計4-4)。これでまたシティが追う立場に。スパーズは選手交代も使って守備型へシフトし、さらに終盤は全員が退いて「バス」を置く。

 シティは2人のDFを残してオールアタック。ロスタイムの93分、スターリングが劇的な5点目を決める。5-3!シティの勝ち抜けかと思われたが、何とVAR判定でオフサイドに。狂喜していたシティの面々は呆然、逆にロスタイムに敗退を宣告されて呆然としていたポチェッティーノ監督らは歓喜に包まれる。一瞬にして天国と地獄が入れ替わっていた。

 もしVARがなかったら、シティの劇的な大逆転勝ちだった。スパーズの勝ち抜けは別の意味でドラマティックであり、どんでん返しのさらにどんでん返しだったわけだが、それを演出したのは、誰も気づいていなかったオフサイドを発見した「機械」だった。CL史上に新たなドラマをもたらしたとみるか、興ざめと感じるかは意見が分かれそうである。(西部謙司=スポーツライター)

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