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【コラム】西部謙司

攻撃の切り札

[ 2021年9月2日 06:00 ]

 どうしても得点がほしい場面で投入され、決定的な仕事をする選手はスーパーサブと呼ばれることもある。コロナ禍で交代枠が5人になっている今は、一気に3人を交代させて攻め手を変える采配も珍しくなくなった。

 得点のために入れる選手なので、スピードがある、空中戦が強いなど、特徴がはっきりしていることが多い。先発で起用するには難があるかもしれないが、一芸に関してはスタメン組以上の力を持っているものだ。

 日本代表で切り札を探すなら、まず三笘薫が思い浮かぶ。左サイドから仕掛けるドリブルでラストパスやシュートに結びつけられる確率が高く、東京五輪の3位決定戦(対メキシコ)では交代で入ってからの約30分間に5回の決定機を作り、1ゴールをゲットしている。コンディションが整わず五輪ではあまり活躍できなかったが、短い時間で決定機を作り出す能力は図抜けている。

 少し前までは10番を背負ってエース格だった中島翔哉の復活も期待したい。決定機演出力は三笘以上、1人でこじ開ける力は近年の日本代表でも最高だった。守備で穴になる可能性があるのでワールドカップ本大会で先発させるにはどうかと思うが、万全ならスーパーサブとして相当な働きが期待できる。

 三笘、中島と違うタイプとしては古橋亨梧がいる。セルティックで大活躍中、移籍前のヴィッセル神戸でも不可欠のエースだった。古橋は守備力やスタミナもあるので、スーパーサブにかぎらず先発させても大丈夫。武器はスピードである。

 三笘、中島がまず足下にボールを置いてからプレーが始まるのに対して、古橋の特徴はラストパスを引き出すフリーランニングにある。スペースを見つけるのが上手で、そこへパサーとのタイミングに合わせて走り出す感覚が抜群。もちろん足が速く、トップスピードでのボールコントロールに優れている。同じタイプとしては浅野琢磨、前田大然がいるが、テクニックと戦術眼で古橋が1枚上だろう。

 神戸ではビルドアップに対して相手がプレスしてきたときに、浅くなっているディフェンスラインの裏へ飛び出す古橋に縦パス1本で決定機を作るパターンがあった。日本代表もGKを含めた後方からのビルドアップを導入している。ただ、ショートパスだけでは相手に狙われやすい。「つなぐ」は「蹴る」とセットになったときに威力を発揮するもので、古橋の存在がビルドアップを完成させてくれるはずだ。

 三笘、中島、あるいは堂安律、久保建英など、日本のアタッカーにはテクニックで勝負するタレントは多いが、古橋のように縦への推進力を加速させられる選手は比較的少ない。ボールの動きが止まればカウンターアタックは止まる。相手はその2秒間に守備を整えられる。ボールを停滞させず、カウンターをカウンターのまま攻め切るにはボールホルダーを追い越したり、斜めや縦への動きで裏を狙える速い選手が重要なのだ。

 ボールを保持するだけでなく、カウンターを中断しない攻撃のインテンシティ(強度)を獲得するには戦術的なキーマンになるかもしれない。(西部謙司=スポーツライター)

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