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【コラム】西部謙司

堅守速攻の落とし穴 短期と長期に分けて論じる必要性

[ 2017年9月6日 19:00 ]

サウジアラビア戦でイレブンに指示を出すハリルホジッチ監督
Photo By スポニチ

 オーストラリア戦に快勝したことでハリルホジッチ監督の手腕と堅守速攻の戦術が称賛されたが、サウジアラビア戦では一転して攻守の課題を露呈する結果となった。

 今回の予選を戦ううえで、相手の長所を潰しながら堅守速攻で僅差勝負をモノにしていく丁寧な戦い方は正解だった。ワールドカップ本大会で必要な戦法でもある。ただし、堅守速攻というのは戦術的にそもそも不完全なのだ。

 ボールを保持しているかぎり相手に攻撃されることはなく得点のチャンスは常にある。理屈のうえでそう言うことはできる。一方、相手にボールを保持されているから安全だという理屈にはならないし、ボールがないのに得点チャンスがあると言えるわけもない。堅守速攻は格上の相手を食うのに適した戦法ではあるけれども、もともと理屈のうえでは破綻している。相手に引かれて速攻ができないとき、先行されて得点しなければならないときのオプションがなければ堅守速攻は保証のないサッカーだ。

 おそらく堅守速攻型で最も洗練されているのはアトレティコ・マドリードだろう。しかし2度のCL決勝でレアル・マドリードに勝てなかった。2度目はボールを持たされて困惑するような展開だった。そこでシメオネ監督は攻撃のオプションを作る。徹底してワンサイドを攻めるやり方である。局面は狭くなり相手を呼び込んでしまうので攻めにくい。ただし、抜け出せればゴール前でビッグチャンスになる。なにより守備面でリスクを負わなくてすむ。狭いサイドでの揉み合いは守備が強いアトレティコには有利で、セカンドボールを拾って波状攻撃を続けることができる。守備の強さを攻撃に直結させたわけだ。

 ところが、ここまでしてもアトレティコはまだCL優勝に届いていない。十分な成果はあげているとはいえ、レアルとバルセロナに勝ちきるには至らない。アトレティコと比べては気の毒になるが、日本は「堅守」を名乗れるほどではなく、攻撃オプションに関してはサウジアラビア戦を見る限りは壊滅的だった。

 そもそもハリルホジッチ監督が成果を出したアルジェリアに比べても、日本はゾーンディフェンスとデュエルに問題があり、堅守速攻方式が本当に合っているのかといえば疑問がある。予選途中でマンマーク寄りの守備に変え、オーストラリア戦ではそれが効果的だったが、ポジションを流動化させるサウジアラビアに対して混乱が生じて失点した。マンマークの弱点である玉突き的なマークのズレが原因だ。

 マンマーク的なインテンシティの高い守備ではチリが最高峰だろう。しかし、チリの選手と日本選手の体格を比べれば、スーパーハードワーク方式でチリのレベルに達するのは相当遠い道のりのような気がする。ハリルホジッチ監督が進める現行の戦い方は来年のワールドカップには向いている。ただし、その先を考えれば向いているとは思えない。短期と長期、2つの視点を分けて 論じる必要がある。短期で仕事を請け負っている監督を長期的な視野で批判するのは無意味。一方、目先のみの視点だけでは将来行き詰まることも確実なので、その点の疑問は技術委員会に向けられるべきものだ。(西部謙司=スポーツライター)

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