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『かつては日本、今は中国』ブラジル経済と中国サッカー

 3月4日、ブラジルは朝から大変な騒ぎだった。というのも、前大統領ルーラの連邦警察による事情聴取が行われたからだ。現政権と同じ政党所属の前大統領が連邦警察と国税庁に連れて行かれるなんて前代未聞、メディアはルーラの自宅前に集まり、一部始終をレポートしていた。

 五輪イヤーだというのに、ブラジルは不景気のど真ん中に陥っている。Bricsともてはやされた時代にはGDPが伸びたものの、2014年からは停滞、現在はマイナス成長という有様。とにかく現政権党である労働党の汚職、経済政策の無能さがひどい。経済成長していたのは、労働党が政権をとる前のカルドーゾ大統領の経済政策、レアルプランが功を奏したのと、世界的成長の波に乗っただけで、ルーラ前大統領、ルセフ現大統領の手腕ではなかった。しかし、ばら撒き政治は通用し、労働党政権を支持した大衆のおかげで2014年の選挙で労働党は僅差で勝利し政権続行。当然、国際的信用も失い、汚職で数千億円もの公金は流出したつけで、予想通り不景気は急ピッチで進んでいる。

 しかし、この汚職の全容解明に立ち向かうラヴァ・ジャット作戦と呼ばれる連邦警察の特別捜査も進んでいる。既に逮捕者も出ており、さらに大きな節目となったのが、3月4日のルーラ前大統領の事情聴取だった。国民は、ついに労働党のシンボルであったルーラに警察の手が及んだことに拍手喝さい。夕方に、ルセフ大統領の演説がテレビ、ラジオで生中継された際には、街中でパネラッソと呼ばれる大ブーイング(鍋を叩いたり、車のクラクションを鳴らしたりする抗議)が起きた。しかも、サンパウロ株式市場は5.12%アップし、ドル高が止まり、0.2ドル安になるという経済効果まで。ルセフ大統領が5年間でやってきた経済策よりも、ルーラの事情聴取の方が効果があったと皮肉されたくらいだ。

 世界ではブラジル経済の話題よりも、リオ五輪におけるジカ熱の心配が大きく取り上げられているが、ブラジル国内では、それほどパニックにはなっていない。確かに、妊婦がジカウィルスにかかることは小脳症を発生させる危険が高まると恐れられているが、感染が確認されているのは赤道に近い地域がメインで、何千キロも離れたサンパウロ市では人々は普通に暮らしている。普段の生活で長袖、長ズボンで対策をするわけでもない。

 リオ市のエドゥアルド・パエス市長は「ジカウィルスよりも普通の風邪で死亡する人のほうが多い。7、8月はリオ市の冬であり、蚊の発生が多い時期ではないし、2月のカーニバルに世界中から観光客が訪れたが問題なかった。我々は、安心して選手たちがリオ市に来られるよう対策に取り組むが、パニックに陥る必要はない」と冷静さを求めている。

 さて、不景気の波は、当然サッカー界にも及んでいる。経済成長著しい頃のブラジルだったからこそ、ネイマールは国内で海外と同等のサラリーを確保され早々に海外移籍をしなくても良かった。そのおかげで、父親が望んだ通りの“ブラジルらしい選手”となることができたのは非常にラッキーだった。しかし、今は状況が変わった。昨年のブラジル全国リーグで優勝したコリンチャンスのMVP、MFのレナト・アウグストが「断りようがないいいオファー」と飛びついたのは、中国スーパーリーグだった。800万ユーロ(約10億円)の移籍金で北京国安と3年契約を結んだ。監督は元日本代表のザッケローニ監督。「中国リーグはお金で選手を買うだけでなく体制も整えている、一流の監督に加えスタッフもハイレベルをそろえている」とレナトは言う。

 中国に行くと決めた時点で、短い選手人生にできるだけ経済的余裕を得たいと、セレソンにも固執していなかったかレナトだが、W杯ロシア大会南米予選の2試合に、ウルグアイ、パラグアイ(3月25、29日)にドゥンガ監督から招集され、さらに、マノ・メネーゼス監督率いる山東魯能からDFのジウもメンバー入りした。

 「誰もが、サッカー後進国でプレーするのは簡単だと言うけど、そんなことはない。サッカーのレベルは低くないし、フィジカルコンタクトも強い。すばらしい監督が呼ばれている。スタッフも一流、選手もブラジル人だけでなく、世界のトッププレーヤーが集まっているリーグだ」
と山東魯能のジエゴ・タルデリは言う。

 どこかで訊いたことのある台詞だと思ったら、そう、90年代Jリーグ初期の華やかな頃、ブラジルから日本に渡ったセレソン級の選手たちが口々にそう言っていたものだ。「日本サッカーはスピードがありテクニックも決して低くない。多くの一流監督、プレーヤーがプレーしてレベルの向上に役立っている。簡単なリーグではないし、ここでプレーするからといって自分のレベルが落ちることはない!」と。

 あの頃のJリーグといったら、見に行きたい人が多すぎてチケットが取れなかった大フィーバーだった。ジュビロのドゥンガ、フリューゲルスのサンパイオは98年W杯フランス大会にJリーグから参加し活躍したばかりか、ドゥンガはキャプテンを務めていたのだから。Jリーガーがセレソンの中心選手、そんな時代もあったのだ。

 一時代が過ぎ、Jリーグは格段にレベルを上げた。が、反対に金銭面での魅力は乏しくなり、今ではセレソン級の選手が行くことは無くなってしまった。世界経済がサッカーに映し出されている。時代の真っ只中にいたドゥンガ自身が、『かつては日本、今は中国』なんて、思っているかもしれない。(大野美夏=サンパウロ通信員)

[ 2016年3月12日 05:30 ]

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