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【コラム】海外通信員

トップ下で輝けるか 昇格STVVへ移籍 小野裕二「こっちで何もやり遂げていない」

[ 2015年8月8日 05:30 ]

 この夏、小野裕二が移籍した。13年1月から約2年半所属していたスタンダール・リエージュを離れ、STVV(シント・トルイデン)へ。2年契約の完全移籍。ベルギー国内移籍だった。

 STVVは、今季から1部に昇格したクラブ。とはいえ、95年から12年までの間だと2部にいたのは08~09シーズンのみ。本来は1部の中、下位で戦っているクラブというべきだろう。ただ、直近の12~13シーズンからの3年間、2部に甘んじていた。それが昨季、ようやく2部で優勝して晴れて1部復帰を決めたのだ。

 このSTVVは、実はスタンダールとは少々関係がある。12年から昨季までスタンダール・リエージュで会長を務めていたのがローランド・デシャテレ。彼はスタンダールの会長になる前、06年から11年までSTVVの会長だった。そんな関係もあって最近ではこの両クラブ間でレンタルなど選手の行き来があった。例えば今季でもスタンダールの19歳の若手FWムボンボがSTVVへとレンタルされている。小野も昨季から声が掛かっていたという。

 「昨年のシーズンが終わる前くらいにチームと来年のことについて話をしていたんです。チームの前の会長(デシャテレ前会長)に『こっちのチーム(STVV)が1部に上がったから、レンタルで行かないか。考えておいてくれ』って言われていました」

 小野の移籍がSTVVの公式HPで発表されたのが7月20日。あっさり決まった印象もあったが、昨季終盤に前会長から打診されていたことからすると小野には十分に考える時間があったということになる。前述のコメントを聞いたのは7月23日のチーム練習後。その時の話からも、しっかりと考えてSTVVへの移籍を決めたことが分かる。

 「もちろん高いレベルでやることが良いことだと思います。ただ、スタンダールは変わっているというか。毎年毎年1年間で選手の入れ替わりが凄いじゃないですか。自分が来て以降、今でも残っているのはイェレ(・ファン・ダメ)とディノ(・アルスラナジッチ)くらい。他の選手はほとんど入れ替わった。いろいろある中で、じゃあ自分はどこで使われるのか。昨季はケガ明けで試合にも出たり出なかったり。チームもいろいろと難しいシーズンだったから、監督も代わりました」

 昨季のスタンダールは監督が2度も交代している。3人の監督たちはその時々でチームの混乱を何とか収拾し、目先の勝利を追うのが精いっぱいで将来を見据えたチーム作りをする余裕がなかった。監督が変わる度にスタメン選手等も変更になっていたわけで、一時期出番が増えていた小野だったが、結局継続的に出場機会を得ることはできていなかった。

 「自分的には試合に出続けるということが今の自分には必要だと思います。3試合くらい連続で出て、そこからまた5試合途中出場で、で、また1試合出る。そういうのも難しい。このチーム(STVV)に来たらコンスタントに試合に出られるというか、チャンスをもらえるというのがあったから、来ました。最初はレンタルという話だったんですが、そこからスタンダールとこのクラブとの間で話をしたりして、来るんだったら完全移籍でということになって、2年契約になりました」

 今回のベルギー国内で移籍したのは目的意識がはっきりしている。

 「自分としてはこっちで何もやり遂げていない。チャンスがあるならやり続けたいという気持ちがある。まずはこっちでしっかり結果を残して、というのが一番だと思っています。そのためには試合に出続けるというのが一番大事だから。監督や強化部の人とかスタッフとかいろんな人と話をしました。シント・トルイデンは熱心に自分を必要としてくれました。スタジアムも新しいし、練習場もすごくきれいなところで。この環境でもう一回最初から。ベルギー国内で考えると、スタンダールと比べたらレベルが落ちると言われるかもしれない。でも、ピッチに入ったらスタンダールだろうがアンデルレヒトだろが関係ない。とにかく今シーズン、ここでしっかりと試合に出続けるということ。もちろん得点に絡むプレー、アシストだったり、ゴールのために味方を活かす自分の動きだったり、そういうのもチームから求められると思います」

 移籍発表から1週間も経たないうちにベルギーリーグは開幕を迎えた。7月24日の金曜日、STVVはクラブ・ブルージュとホームで対戦した。スターティングラインナップには、小野裕二の名前があった。STVVのフォーメーションは4ー2ー3ー1。小野はトップ下に入っていた。

 先制したのはクラブ・ブルージュ。だが、後半に入ると、後半12分にフェルナンデス、後半29分エジミウソンとSTVVが2点を奪って逆転。そのまま開幕戦を勝利で終えた。小野は90分間フル出場。クラブ・ブルージュという強豪を相手にド派手な逆転劇を見せたSTVVは、かなり衝撃的だった。

 センターFWのボリ(背番号11)は21歳のフランス人。手足が長く、それなりに身長もあり、ポストプレーで柔らかいボールタッチを見せ、ファーストタッチで反転しつつDFを置き去りにしたりもしていた。左MFのエジミウソン(背番号22)は20歳のブラジル系ベルギー人。ドリブラーで、1人、2人はぶち抜いてチャンスを作り出す。この試合では強烈な右足のミドルシュートでセンセーショナルな逆転ゴールを決めていた。右MFのドムペ(背番号10)は19歳のフランス人で俊敏なドリブラー。そのスピードで何度も右サイドを縦に突破していた。この前線の3人の個人技はかなり強烈で、前線にボールが渡れば個々の仕掛けから前へのスピードが落ちることなくクラブ・ブルージュのゴールへと迫っていく。その流れに乗るかのように、小野もまた積極的にドリブルで縦に何度も仕掛けていた。

 一方でスーパーゴールを決めたエジミウソンは後半33分にイエローカードを2枚受けて退場処分になっている。若さゆえの稚拙さというべきものだったが、そんな少々やんちゃな若手選手たちに失敗を恐れずに存分に持ち味を発揮させる雰囲気というのがSTVVにはあった。4ー2ー3ー1という今日ではもっともスタンダードなフォーメーションで、ハードワークは要求するもののシステムでがんじがらめにはしない。若手が伸び伸びとしたサッカーを披露するチーム。それが今季のSTVVのようだ。

 「みんな結構個性的で。テクニックもあるし、スピードもある。ただ、前の4人だけにならず、ベンチの選手も含めて誰が出てもこういう勝てるサッカーができるようにしていきたいと思います」

 昇格チームであるSTVVにこれほど才能と個性を感じさせる選手が揃っているのには驚きだったが、小野もまたトップ下というポジションでやり易さを感じていたようだ。

 「自分のポジションは真ん中。だから左サイドの選手は結構中に入って、ゴールを決めた時のような右足でシュートというのがあるから、例えば自分がスペースに流れて相手を引きつけて彼を生かすとか。逆に右サイドの選手は縦に速いから、クロスを期待して自分は中に入っていける。そういういろんなプレーができる。前もしっかりとボールをキープできる選手だし、今日は凄くやりやすかった。スタンダールでやっていた時は右MFだったら右MFで自分がクロスを上げる役割とかだったので」

 とはいえ、満足はしていない。

 「もっともっと。きょうは勝ったから良かったけど、カウンターの時にもっとゴールに近い位置でプレーするとか。もっとシュートを打ったりクロスを上げたり、そういうゴールに絡むプレーを。これからはもっとパスを繋ごうとか、そういうのもあると思うので、真ん中でアクセントを付けられるように。自分が裏に飛び出していくのか、それとも間で受けてボールを散らしてからゴール前に入って行くとか。これから自分がチームにフィットしていけば、やれると思うのでそういうプレーをしていきたいと思います」

 翌週には、リーグ戦第2節、ムスクロンとのアウェーゲームがあった。STVVは2ー0と2連勝。小野は先発出場したものの、前半45分で負傷交代している。次節出場できるかどうかは経過を見ないと分からないが、深刻なものではないようだ。

 STVVは若いチームであり、安定感は望めない。だが、リーグ前半戦の台風の目になりそうな気配がある。小野はなかなかに面白いチームに移籍したようだ。(堀秀年=ロッテルダム通信員)

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