「おちょやん」脚本・八津弘幸氏 朝ドラ初挑戦に「恐怖」も手応え 喜劇と“ダメ人間”描く意義

[ 2021年1月4日 08:15 ]

連続テレビ小説「おちょやん」の脚本を手掛ける八津弘幸氏(C)NHK
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 女優の杉咲花(23)がヒロインを務めるNHK連続テレビ小説「おちょやん」(月~土曜前8・00、土曜は1週間振り返り)は4日から第5週「女優になります」に入り「京都編」がスタート。父・テルヲ(トータス松本)の借金騒動に巻き込まれ、奉公した道頓堀の芝居茶屋「岡安」を出ることになった主人公・千代(杉咲)の女優人生の幕が開く。朝ドラ初挑戦となった脚本家の八津(やつ)弘幸氏(49)に話を聞いた。

 朝ドラ通算103作目。タイトルの「おちょやん」は“おちょぼさん”が訛り、茶屋や料亭などで働く小さい女中さんを意味する大阪ことば。女中奉公の8年間がヒロインの原点になっていることの象徴として採用された。TBS日曜劇場「半沢直樹」(2013年)などのヒット作を生んだ八津氏が手掛けるオリジナル作品。明治の末、大阪・南河内の貧しい家に生まれた少女・竹井千代(杉咲)が芝居の世界に魅了されて女優を目指し、のちに「大阪のお母さん」と呼ばれる上方のコメディエンヌになる姿を描く。

 八津氏は1999年に脚本家デビュー。大胆な構成力とエンターテインメント性をベースにした重厚な人間ドラマはもちろん、笑いと涙の人情ドラマも執筆してきた。

 朝ドラ初挑戦に「率直にうれしかったです。私がまだ新人の頃、どんな作品を書きたいかと聞かれ『日本で脚本を書くからには、やっぱり朝ドラか大河ですね』なんて言っていたんです。それが実現でき、感無量といったところです」と喜び。

 「ただ話が本格的に進むにつれ、少しずつ喜びが恐怖に変わっていきました。よくよく考えてみると、あの朝ドラだよなと(笑)。半年間ちゃんと走り切らなければと、不安でいっぱいです。書き始める前、周りの人たちから『八津さん、1話15分のペースは本当に難しいですよ。それを毎週5話続けるのは大変ですよ』とすごく言われて、自分でもそうだよなと思っていたんです」

 それが「実際に書き始めてみたら、そんなことはありませんでした。実は僕は以前、週刊誌で漫画の原作の仕事などもやっていたのですが、そのペースに近い感覚があるんです。15分の中に毎回ちょっとしたヤマを作っていくのは楽しいですね。毎日盛り上げすぎるのは朝ドラに合わない気もしたのですが、結果的には良い方向に働いている気がしています」と手応え。「どうせ書かせていただくのですから、習慣で見ていただくのではなく、毎日本当に面白くて、どうしても見たくて見てもらえるような作品にしたいんです。そう思いながら、書いています」と心構えを明かした。

 キャラクター造形については、ヒロインのモデルとなった女優・浪花千栄子さん(1907―1973)の自叙伝以外に「資料は思ったより少なかったので、想像を膨らませながら竹井千代を描いています。浪花さんの人生は、喜劇女優にたどり着くまでに、いろいろな人に裏切られたり、孤独な部分もあったため、最初、心の中にそういうものを抱えている女性として千代を描いていました。でも、暗い部分を描き出そうとすると、かえってウソくさくなるというか、わざとらしくなる気がしたんです。そう感じてからは、どんな困難にぶち当たっても前を向いて生きていく、とにかく明るい千代を描くようにしています。たとえば、どうしようもない親父のテルヲは、何度も千代のことを裏切ります。千代はそのたびに、どこかで父親が今度こそちゃんとしてくれるんじゃないかと期待してしまう。そんな彼女の葛藤をきちんと踏まえた上で、前を向いて生きていく千代の姿を、ウソのないように描いていきたいですね」と説明。

 さらに「この作品には、喜劇というファクターがどうしても外せません。『喜劇って何なんですか?』と問われると、人間のダメさ加減、滑稽さを描き、最後はホロッと泣けて、優しい気持ちになれる、それが喜劇かなと思っています。だからこそ千代も、自分が喜劇をやることでお芝居を見た人が元気になってくれたらと思っているわけです。ですから、この作品でも、喜劇のそういうところが見ている方に伝わるといいなと思っています」と解説。

 「最近、世の中はSNSでもすぐに批判が起きたりして、トゲトゲしい時代になっていますよね。それが僕はすごく嫌なんです。人間はそんな完璧な人ばかりではないですし、ダメな人もいる、それでも、みんな頑張って生きている。そういう人に対して許してあげられる優しさみたいなものを、みんなで持てたらいいなと思っているんです。この作品に出てくる役者たちはみんな本当にダメダメなキャラクターばっかりです(笑)。役者だけでなく、千代の家族も、千代が道頓堀で出会う人々も、みんなちょっとひと癖あるキャラクターばかり。でも、どのキャラクターも、みんなどこかに必ずいい部分も持っている。そんな登場人物たちを見て、皆さん、笑ったり泣いたりしながら、ちょっとでも優しい気持ちになってもらえたらいいなと思っています」と喜劇と“ダメ人間”を描く意義を語った。

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2021年1月4日のニュース