【内田雅也の追球】「アレ」は「スローリー」

[ 2024年2月26日 08:00 ]

オープン戦   阪神1―4中日 ( 2024年2月25日    北谷 )

<中・神>2回、生還した森下(中央)を出迎える井上(左)と野口(撮影・北條 貴史)
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 北谷に来ると、キャンプの終わりを感じる。阪神はここ何年もキャンプ最終盤のオープン戦を中日キャンプ地の北谷で行っている。

 1軍当落線上にいる選手たちは沖縄で最後のアピールの場となる。今で言えば、特に右の強打の外野手、井上広大、野口恭佑を注目していた。ともにフリー打撃では柵越えの大きな当たりを連発する。問題は実戦でいかに力を出せるかだ。

 ただし、この日の試合に限っては不運だった。5回表に代打で出て3打席立った井上は2四球に三ゴロ。7回表に代打で出た野口は死球。先発7番で起用された前川右京も2四球で歩き、残りは遊ゴロ2本だった。

 相手投手の制球が悪く、四死球ばかりで消化不良だった。ネット裏記者席でストライク来い、打て……と念じていた。結果はどうあれ、四死球では首脳陣も判断に迷う。

 ボール球ははっきりボール球だったが、打ちたい気持ちを抑え、よく辛抱したものだと思う。19日付の当欄で「歩いては海を渡れない」という大リーグ入りを狙う中米の若手打者が悪球でも打ちに行く例を紹介したが、阪神の若手は自制心がきいていたわけだ。

 試合後、監督・岡田彰布は井上や野口ら若手打者について「そこが一番のアレやで」と言った。1、2軍の「線引き」という意味である。そして、この日の結果では判断しかねるとして「その辺はもうちょっと見てからやな」と先送りにした。

 大リーグには「ジャッジ・スローリー」という監督やフロントに向けた警句がある。「ゆっくり判断せよ」である。

 「野球は人生そのものだ」を座右の銘にする長嶋茂雄の著書『野球へのラブレター』(文春新書)に出てくる。<野球は失敗のスポーツで悩みのスポーツだが、常に次の試合があり、来年がある。再挑戦の機会が巡ってくる。あきらめない限り、チャンスは与えられる。人生もまた同じ>。

 選手の良しあしを判断するには時間をかけるべきだという教えだ。指導者にはそんな忍耐力が必要というわけだ。

 昨年日本一となった阪神はオフにこれといった補強を行わず、現有戦力の底上げで連覇できると踏んでいる。ただし、固定化しているレギュラー陣を脅かす若手、控え組の押し上げがほしい。

 季節が戻り、寒風吹きすさんだ北谷で、先送りされた若手打者の台頭を思った。 =敬称略= (編集委員)

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