【内田雅也の追球】こいつを勝たせなければ 同僚も悟った森木のエースになれる資質

[ 2022年8月29日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神1―4中日 ( 2022年8月28日    バンテリンD )

<中・神>6回2死一塁、ピッチドアウトして二塁に送球するもベースから逸れ、岡林に二盗を許す坂本(撮影・北條 貴史) 
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 阪神・森木大智は駆け足を速めた。6回裏、3点を失い、ベンチに帰る時である。落胆するわけでなく、悔しさを振り払うように走っていた。

 プロ初登板の19歳新人は本当によく投げた。同じ6回まで投げ合った相手中日の柳裕也に内容で勝っていた。5回まで1安打。2~5回は1人の走者も許さなかった。

 さらにプレートさばきがいい。マウンドでの立ち居振る舞いが堂々としていた。坂本誠志郎のサインに時に首を振って自分で投球を組み立てていた。走者一塁時のクイック投法も速く、手もとの計測で1秒04~18と十分な合格タイムだった。バント処理は素早かった。

 こんな快投のルーキーを敗戦投手にさせてしまうとは情けない。何とか救ってやりたかった。

 失点した6回裏も先頭打者の中前打は遊撃手・中野拓夢のグラブの下をすり抜けるゴロだった。1点を失った直後の2死一塁で、ピッチアウトしながら捕手・坂本の二塁送球が乱れ、二盗を許した。刺していれば1失点ですんでいた。

 2死二塁となり、申告敬遠、前進守備の右翼頭上を抜かれる2点二塁打と悪循環。懸命に守ってはいたのだろうが、結果として新人投手の足を引っ張る形となった。

 掛布雅之が著書『若虎よ!』(角川新書)で<エースの条件>として<相手エースと常に五分以上でわたりあえるたくましさを求めたい>と記している。<ピッチャーが踏ん張ると、野手のモチベーションに変化が生まれる。「こいつを勝たせなければ」という“頑張り”が出てくる>。

 まさに、この日の森木で、エースになる資質があるわけだ。打者は「こいつを勝たせなければ」と頑張ったはずだ。気合は空転してのゼロ行進。9回に零敗を阻止するのが精いっぱいだった。

 森木は降板後、広報担当を通じて「6回につかまったのは反省点。今後の課題」と話していたが、反省や課題は打者陣こそ抱きたい。

 慰めになるかどうか。阪神の高卒新人初登板は藤浪晋太郎が6回2失点で敗戦投手。江夏豊の初登板は救援で、初先発は2回4失点の敗戦投手だった。大いなる未来が待っていると信じたい。

 長期ロードの旅の終わりは文字通り尾張の地。森木が敗れた試合と覚えておく。 =敬称略=
 (編集委員)

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