岩手勢90年ぶり4強!菊池“消えた”花巻東一丸逆転

[ 2009年8月22日 06:00 ]

<明豊・花巻東>延長10回に相手野手と激突した花巻東・佐藤涼は元気に笑顔で守備位置に走る

 第91回全国高校野球選手権第12日は21日、甲子園で準々決勝2試合が行われ、第1試合では花巻東(岩手)の155キロ左腕・菊池雄星投手(3年)が5回途中に背中に痛みを訴えて緊急降板。しかし、打線が9回に2点差を追いつく驚異的な粘りを見せて、延長10回7―6で明豊(大分)に競り勝った。岩手県勢のベスト4は1919年の盛岡中(現盛岡一)以来90年ぶり。また、第2試合は日本文理(新潟)が大会史上初の2試合連続毎回安打となる19安打11得点の猛攻で立正大淞南(島根)を下し、県勢初の準決勝に進んだ。

 【花巻東(岩手)7―6明豊(大分)】割れんばかりの拍手が身長1メートル55の背番号8を包み込んだ。今大会最小兵の佐藤涼がグラウンドへ戻ったとき、花巻東のミラクルストーリーはクライマックスを迎えた。
 「頭がぼーっとしてたけど、温かい歓声がすごくうれしかった。この場所で野球ができることの幸せを感じた」
 同点の10回。無死一塁から送りバントを決めた佐藤涼はベースカバーの明豊・砂川と激突し、吹っ飛ばされた衝撃で地面に頭を打ちつけた。担架に運ばれての退場。医務室で手当中に歓声が聞こえた。自分が決死の思いで二塁へ送った柏葉が川村主将の中前打で生還したのだ。頭部打撲との診断を下した医師に「出たい」と直訴。医務室を飛び出すと、10回裏をしっかりと守り抜いた。
 絶対的エースの異変は5回だった。1球投げるごとに腰を押さえ、球速が落ちる。「3回からおかしいと思ってた」と川村主将。そんな緊急事態に誰もが奮い立った。2点を追う9回。3回戦まで1安打の同主将が右前打で口火を切り、無死二、三塁。そして横倉。カウント2―0となると、伝令役を志願して走り寄ってきた菊池に肩を抱かれた。そしてささやかれた一言。「おまえなら打てる。2年半やってきたことをすべて出せ」。直後の球を中前へ運び同点とした。菊池の伝令は計3回。10回に明豊・今宮の145キロを打ち砕いた川村主将は言った。「雄星にもう1回投げさせてくれと言われたから」。その言葉に応えるだけの力をナインは培っていた。
 センバツ準優勝後に覇気を失っていたチームに、佐々木監督は「どうせおまえらは雄星のチームなんだろ」と厳しい言葉を投げかけた。そこからだった。全体練習の後の個人練習。全員が夕食時間ギリギリまで寮へ戻らなくなった。「全員で雄星だけじゃないのを見せたかった」。人一倍の練習量を誇る佐藤涼の言葉には重みがある。初回に頭部死球を受けた柏葉が2安打すれば熱中症で途中交代の山田も2安打。指揮官は「こんな試合をしたかった」と笑った。
 菊池がいなくても勝った。岩手県勢90年ぶりの4強。花巻東の夏はまだ終わらない。

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2009年8月22日のニュース