尾車親方 携帯電話の着信、ようやく気にしない日々が 協会No・2の多才な親方が別れ

[ 2022年3月30日 07:00 ]

尾車親方

 27日に千秋楽を迎えた大相撲春場所は例年「就職場所」と呼ばれ、世間より1カ月早い出会いの季節を終えた。一方で、4月に日本相撲協会の65歳定年を迎える元大関・琴風の尾車親方(64)は場所中に会見を開き、別れの言葉を述べた。

 「女房とゆっくり温泉に行きたい。携帯電話の着信を気にせずにね」。14歳での入門から51年。現役、親方生活を振り返る言葉に、協会No・2の心労を思った。

 巡業部長に続き、年3度ある東京場所での責任者の事業部長。ここ5期10年の理事在職中は新型コロナ、また不祥事対応に追われた。「朝6時から“力士がコロナにかかった”と電話がかかってこないか、と。今は本当に気が楽です」と苦笑いした。自らの弟子が大麻所持で逮捕されたり、八百長問題に関与したりしたとして処分されたこともあった。

 現役時代は左膝のケガのため関脇から幕下、そして大関へ。大関から序二段まで降格した横綱・照ノ富士の40年、先を行った。支えは「努力は裏切らない」の言葉。押尾川親方(元関脇・豪風)、中村親方(元関脇・嘉風)らの弟子に伝えたのもこの言葉だったという。

 「もう土俵に上がれないとか自暴自棄になった。師匠(元横綱・琴桜の先代佐渡ケ嶽親方)に恵まれました。あきらめるな、と声を掛け続けられたことで復帰できた」。入門前、部屋の稽古を見学し、洋菓子「マロングラッセ」をもらった。「お相撲さんってこんな高級なものを食べてるんだ」。そう興奮したと回想し、「でも1箱だったら(力士に)なってなかったかも。2箱だったからリッチに見えた」と笑った。

 1982年に「まわり道」をヒットさせた歌手であり、大相撲中継での解説も人気。協会No・2の事務処理能力も光る、多才な人だった。

 「僕みたいな未経験、運動神経が悪い、体形も相撲に向いていない者が大関になれた。賜杯を抱くことだって誰でも夢じゃない」。大相撲を志す若者全てへのエールに聞こえた。

 心残りを一つ挙げた。「弟子に琴風とつけたかった。全然永久欠番とは思ってない」。会見では口にしなかったが、元幕内の友風が東幕下8枚目で3勝4敗。右膝を痛め、一時序二段まで落ちたが、十両復帰が目前だ。

 「(尾車親方には)たくさんご指導いただき、面倒も見てもらった。言葉の全てを受け止めて、強くなれればいい」と友風。その歩みは琴風2世にふさわしく、将来の2代目襲名をひそかに期待している。(相撲担当・筒崎嘉一)

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2022年3月30日のニュース