内村航平、鉄棒金メダル呼ぶ3種の車輪

[ 2021年7月14日 05:30 ]

3大会連続での金メダル獲得を目指す体操の内村航平
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 【メダル候補の心技体】体操男子の種目別鉄棒に出場する内村航平(32=ジョイカル)は、離れ技に至る過程で3つの車輪を使い分ける。H難度「ブレトシュナイダー」は大きく、G難度「カッシーナ」は勢い良く、そしてE難度「コールマン」は気持ち良く。基本動作を追究し、自身初となる種目別の五輪タイトルを手に入れる。

 内村が組み込む得点源の離れ技3つは、全て同じ技を“起源”とする。ベースになっているのは、バーを越えながら後方抱え込み2回宙返り懸垂の「コバチ」だ。冒頭の「ブレトシュナイダー」はコバチに2回ひねりを加えたもの。「カッシーナ」はコバチを伸身で実施し、1回ひねる。「コールマン」はコバチ1回ひねりとなる。バーから手を離し、次にキャッチするまでのわずかな時間、見る者はスリルを味わう。成否を分かつ技術は何か。内村が重視しているのは、鉄棒の基本動作「車輪」だった。

 (1)ブレトシュナイダー 演技を始めてから12秒後、大技に挑む。「車輪で描く弧が、大きくなるような感じでやっている」。バーのしなりもコントロールし雄大な回転からH難度の大技につなげる。昨年9月の全日本シニア選手権で実戦初投入して以降、一度も落下せずに国内選考を駆け抜けた。

 (2)カッシーナ 3つの技で唯一、姿勢は伸身。「車輪の勢いが違うことは、目に見えて分かるんじゃないですかね」。技をかける前の車輪で、下半身を大きく振って、反動をつける。フルパワーで体を空中に投げ出すことで、美しいG難度は成立する。

 (3)コールマン ひねりが1回多いブレトシュナイダーの車輪と感覚は近いが、わずかに意識に差があるという。「この2つの車輪は見分けがつかないかもしれない」と前置きした上で、「ブレトシュナイダーよりもリラックスしてやる感じ」と説明。気持ち良く回った先に、E難度は余裕たっぷりに成功する。

 3種の車輪を巧みに使い分けるため、周到な準備を行う。本番会場に入る前のウオーミングアップでは、上半身と下半身をつなぐ腸腰筋を入念にストレッチ。16年12月のプロ転向後からタッグを組む、佐藤寛朗コーチは「鉄棒にぶら下がって脱力した時に、大きく見えるかどうか」とし、「しっかり肩から抜けて、長く体が伸びている状態で(車輪を)大きく回すのがポイント」と説明した。

 国内選考会の5演技は、現行ルールとなった17年以降の世界選手権金メダルの得点を上回り、6月の全日本種目別選手権の予選では世界最高となる15・766点をマーク。代表決定後の試技会で非公式ながら15・800点を叩き出した内村だが、五輪の鉄棒には苦い記憶もある。

 12年ロンドン、16年リオデジャネイロ五輪は予選の鉄棒で落下。団体総合と個人総合の予選通過には問題がなかったが、種目別鉄棒の決勝には進めなかった。

 1種目のみの出場となる東京五輪では落下は即、致命傷となる。まずは開幕翌日24日の予選を通過し、8月3日の決勝へ。五輪3大会連続の金メダルと、いまだ手にしていない五輪種目別のタイトルがターゲットだ。「目の前の試合を一つ一つ全力でやるという気持ちに変わりはない。満足いく演技を追求していきたい」。鉄棒の基本動作「車輪」から、黄金の軌跡は描かれる。(杉本 亮輔)

 ◇内村 航平(うちむら・こうへい)1989年(昭64)1月3日生まれ、長崎県出身の32歳。3歳で体操を始め、五輪初出場の08年北京大会で団体総合、個人総合で銀メダル。09~16年に個人総合で2度の五輪制覇を含む世界大会8連覇を達成し、16年12月に日本体操界初のプロに転向した。1メートル62、52キロ。

《Vなら84年ロス大会の森末以来》体操はこれまでの五輪で全競技中、日本最多の98個のメダルを獲得してきた。31個を数える金メダルのうち、最多は団体総合の7で、個人総合と種目別鉄棒が6で続く。64年東京五輪で日本選手団の主将を務め、「鬼に金棒、小野に鉄棒」と称された小野喬さん(89)は鉄棒で56年メルボルン、60年ローマと五輪連覇を達成した。

 9日に町田市内で行われた聖火リレーの点火セレモニーで、小野さんは内村に「ぜひとも金メダルを獲って、日本の皆さまに喜んでいただくことを心から願っています」とエール。内村は体操ニッポンでは、小野さん以来の4大会連続の五輪出場となる。16年リオデジャネイロ五輪前に激励された経験があるキングは、「4大会連続が史上2人目で、過去にいたのはちょっと悔しい」と笑った。

 日本勢の鉄棒の金メダルは84年ロサンゼルスの森末慎二から遠ざかっており、表彰台も04年アテネ銅メダルの米田功が最後となっている。

 《最大のライバルはロンドン金の“鉄棒の神”ゾンダーランド》東京五輪で内村の最大のライバルは、エプケ・ゾンダーランドだ。内村が“鉄棒の神”と言うオランダの35歳は12年ロンドン五輪金メダル、世界選手権も3度制覇している。種目別W杯では同種目で1位となり、五輪切符を獲得した。離れ技を連続で実施するなどアクロバチックな演技が持ち味だが、出来栄えを示すEスコアでは内村が上回る。

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