五郎丸氏「社長になるのは一つの大きな目標」今後キャリア、日本ラグビー界の未来について語る

[ 2021年7月14日 05:30 ]

インタビューに応じ、東京五輪やラグビーの新リーグなどについて語った五郎丸歩氏
Photo By スポニチ

 ラグビー元日本代表で、静岡ブルーレヴズ(旧ヤマハ発動機ジュビロ)のクラブ・リレーションズ・オフィサー(CRO)に就いた五郎丸歩氏(35)が13日、スポニチのインタビューに応じた。現役引退から約3カ月、CROとしての活動開始から1週間あまり。今後のキャリアや日本ラグビー界の未来、開幕が迫った東京五輪への思いなど、ざっくばらんに語った。

 ――引退して3カ月が経った。普段の生活に変化は。
 「トレーニングをしなくちゃいけない、というのがなくなったのは、凄く楽になった。メディアやイベントに出た時、現役時代はちょっと罪悪感があったが、今は全くない」

 ――体の変化は。
 「体重は100キロくらいで変わらない。(運動は)家の周りを走ったり、ジョギングくらいはしている。仕事の面では新会社(静岡ブルーレヴズ)でスタートしている。現場の人間がよりモチベーションを持ってやれるように裏方に入るのは人生初なので、非常に面白い」

 ――CROとして、どんな活動をしていきたいか。
 「社長(山谷拓志氏)が(ラグビー界の)外部から来たし、スタッフも数名、外部から来た。だから、うまく現場とマネジメントサイドをつなげたらいいなと思う。社長からはメディアに出て、クラブと関係のない方々とつなげたり、ラグビーを知らない人に、知っていただくような活動をやってほしいと言われている。マネジメントの業務をこなして、スキルも付けていきたい」

 ――来年1月開幕予定の新リーグに向けては、チケットの販売企画などを担当する。具体的なアイデアは。
 「チケットだけをそのまま売ろうとは思っていない。静岡にはいろんな施設があるので、タイアップをしていきたい。コロナ次第ではあるが、試合だけを目的に来るのではなくて、そうした施設をうまく活用しながら、いろんなカテゴリーのチケットを提案していきたい。ヤマハ(グループ)として葛城ゴルフ倶楽部や(リゾートの)北の丸があり、都会の人たちには是非行ってもらいたい。また、チケットカテゴリーによる観戦エリアの差別化はしたい。われわれもビジネスとしてやるので、カテゴリーに応じたサービスを提供していきたい」

 ――興行面で世界で最も成功していると言われるフランス1部リーグのトゥーロンで16~17年にプレーした。当時の経験がマネジメント業で生きるのでは。
 「フランスは本当に凄かった。普通のリーグ戦で6、7万人の観客が入る。それだけ熱狂しているファンがいる。それはスタジアム内だけではなく、スタジアム外でもファンが満足するサービスがあるから。日本でもそうしたサービスがあれば、もっとファンに見に来てもらえると思う。ただ、日本は独自の文化を持っているので、フランスや南半球の真似をする必要はない。独自のものを作りたい。日本の良さを生かし、ファンに提供できたらいいと思う」

 ――静岡はサッカーが盛んで、ローカルのチームを応援する文化が根付いている点は有利に働くのでは。
 「静岡は横に長く、西はジュビロ、東はエスパルスがあって、ファンは結構バトルをしている。それを束ねるのがブルーレヴズでいいのかなと。(県全体から愛される)いい存在になれると思う」

 ――指導者への未練は。
 「全くない。逆にビジネスサイドに行く人間がいなかったので、そこに魅力を感じてほしい」

 ――とは言え日本代表でも活躍し、次の世代へ技術を伝承しないのはもったいないと感じないか。
 「それは周りからも結構言われる。ただ、(国内ラグビーが)新リーグになるタイミングと、引退するタイミングが重なり、どっちに進むか迷った時、ビジネスサイドに行った方が面白いと思った。これで僕が成功すれば、ラグビー界からビジネスサイドに行きたいという人間が増える。誰か1人が行かない限りは、なかなか新しい世界はできない。その意味で楽しみにしている。その分、子供たちにはしっかりラグビーを教えていきたい」

 ――現役時代から続けている子供の指導は続けていく。
 「僕が好きなのは、まだ色が付いていない子供たちに教えること。めっちゃ楽しい。(15年や19年の)W杯が終わってラグビーが面白そうと思っても、ボールがない、環境がないという状態だった。そういう子供たちに、1人でも多く体験してもらいたい」

 ――東京五輪開幕まで10日となった。コロナ禍でほとんどの会場が無観客になるなど、祝祭ムードのない異例の五輪について感じることは。
 「周りはいろいろ言うが、一番複雑な気持ちなのは選手たちだと思う。実際に開幕して選手が闘う姿を見れば、何で反対したんだろう?と思う人が増えるのではないか。頑張る選手の背中を見ることが、今の世の中の状況では非常に必要だと思う。観客を入れる、入れないの議論はあるが、そこはリスクの問題があるので、入れないなら入れないでいい。しかし、もう少し選手を応援してあげたいとか、サポートしてあげたいという空気が出てくれば、選手はつらい思いをせずに闘えると思う」

 ――自分自身が、世論や社会の空気でつらい思いをした経験はあるか。
 「(あったとしても東京五輪の代表選手とは)比べものにならない。日本で五輪で開催されるのに、自国民に応援してもらえない選手たちほど、つらいものはない。それでも闘わないといけないのが選手だが、そういう気持ちで闘う選手を見て、いろいろ感じるものはあると思う」

 ――注目している競技は。
 「柔道が大好きなので注目している。自分はやったことがないが、昔から好き。何と言っても武道の精神がいい。(2人の)息子が柔道をしていて、道場に行くと思うが、礼に始まり礼に終わる。日本人が大事にすべきものがあるなと思い、非常に勉強にもなる」

 ――7人制ラグビー日本代表への期待は。
 「(コロナ禍で)対外試合ができていなかったのは日本だけではないし、その中でも(本番と)同じ環境、同じ気温、湿度でトレーニングができているのはいいこと。是非メダルを獲ってほしい。(メンバーでは)特に藤田(慶和)は15年W杯で一緒に闘った選手。違うフィールドでラグビーを広げていける存在なので、頑張ってもらいたい」

 ――自分自身は、日本ラグビー界全体にどう貢献していきたいか。
 「(静岡ブルーレヴズの)社長になるのは一つの大きな目標だと思う。結果を残さないと始まらない。まずはしっかり自分がスキルを身に付けて、ブルーレヴズでトップを目指したい。その目標をクリアしたら、次のステップへという感じで行きたい」

 ――チームはどう発展していくべきか。
 「欧州で言えばフランスが世界トップの収益を出している。先日も山谷社長と話したが、トップチームはだいたい40億円くらいの収益を上げている。チームの魅力を上げ、スポンサーが付いたりすれば、40億円は届くのではないか、という話しをした。そういう世界観がラグビー界にできたらいいなと思う」

 ――新リーグはどう発展していくべきか。
 「まずは試合数を増やさないと話にならない。現在の15試合程度では、本当のプロリーグになった時に収益を出せない。試合数を増やすのは大きな課題としてある。(フランスのようにシーズンが)10カ月とは言わないが、7カ月くらいは最低やらないといけない。今はクラブが軽視されていると言ったら語弊があるが、(日本ラグビー界が)代表を中心に回っている。クラブが収益を出していけば、発言権も強くなっていくはず。その辺は改革が必要。(自分自身は)まだまだ改革できる人間ではないので、スキルをしっかり付けていきたい」

 ――23年W杯まで、あと2年と少し。日本代表に期待することは。
 「19年W杯以降、対外試合が(約1年8カ月)できなかったにも関わらず、(7月3日の)アイルランド戦は僅差だった。ああやって普通に試合ができたし、短期間でチームを仕上げていた。日本代表の実力が、明らかに付いている証拠。また秋にリベンジできる機会(11月6日に対戦決定)もある。(全英・アイルランド代表)ライオンズに招集されていた(主力)メンバーも帰ってきて、本物のアイルランド代表と試合ができる。それはファンとしても楽しみ。あ、もうファンって言っちゃった(笑い)。もうファンですね」

 ◇五郎丸 歩(ごろうまる・あゆむ)1986年(昭61)3月1日生まれ、福岡県出身の35歳。3歳でラグビーを始める。佐賀工―早大卒。08年にトップリーグ(TL)のヤマハ発動機に入団。日本代表では05年4月のウルグアイ戦で初キャップを獲得。その後は一時遠のいたが、エディー・ジョーンズ・ヘッドコーチ体制となった12年から定着すると、15年W杯では初戦の南アフリカ戦で1トライを含む24得点を挙げるなど、34―32で勝利する世紀の番狂わせに貢献。同大会ではベストフィフティーンに選ばれるなどし、国民的ヒーローになった。16年にはスーパーラグビーのレッズ(オーストラリア)、16~17年はフランス1部のトゥーロンでプレー。トゥーロン退団後の17年下半期にヤマハ発動機に復帰し、今年4月に現役を引退した。日本代表通算57キャップ。テストマッチ通算711得点は日本代表歴代最多記録。TL通算得点1282は歴代最多。今年7月に静岡ブルーレヴズのクラブ・リレーションズ・オフィサー(CRO)に就任。趣味は釣り。

続きを表示

2021年7月14日のニュース