終わらない恩返しの旅「自分が活躍することには意味がある」桃田賢斗インタビュー(3)

[ 2021年3月9日 04:00 ]

東日本大震災から10年の節目を迎える前に思いを語る桃田
Photo By 代表撮影

 東日本大震災から10年を迎える節目で、バドミントン男子シングルス世界ランキング1位の桃田賢斗(26=NTT東日本)が代表インタビューに応じた。震災後には違法賭博問題で謹慎処分を受け、20年1月には遠征先のマレーシアで交通事故に巻き込まれた。波瀾(はらん)万丈な競技人生を歩む男は、どれだけ多くの人に支えられた分からない。今月17日開幕の全英オープン(バーミンガム)で国際舞台への復帰を果たす予定で、金メダルを目指す東京五輪へのラストスパートが始まる。

 ――2019年の全英オープン決勝は日本時間で3月11日だった(同大会初優勝)。覚えているか。
 「覚えている」

 ――どういう気持ちで試合に臨んだのか。
 「試合前にちょっと考えた。自分、割とそういう時があるんですけど、いきなり周りの人のことを思い出したりとか。その時は、震災からああこういうことがあったなとか少し思い出して。その日だからというわけではないけど、そういう人たちに少しでも見てもらえているなら、少しでも元気を与えられる試合をしようと思ったのは覚えている。凄く緊張していたけど、なぜかそういうことを考えていた」

 ――優勝という結果が震災で被害に遭った人たちに力を与えられるという考えも持っていたということか。
 「そうですね。正直現場に行って復興支援を手伝えるわけではないので、お世話になった方々に結果で恩返しするというか。スポーツは見ていると元気や感動を与えられると思うので、そういう面では少しは力になれたのかなと思う」

 ――震災当日に日本にいたわけではないが、被災者の一人という立場で、今だからこそ伝えたいことは。
 「本当に先が見えない、本当につらい日々だったと思うけど、自分はそこまで経験していないので、本当につらかったと思うし、僕自身チームメートと会えないだけで本当につらかったし、でもその中でいろんな人が協力して少しずつ復興して、まだ完全な状況ではないと思うけど、人と人とが協力する、そのエネルギーというか、そういうのは本当に凄いと思った。だからこそ自分も結果だったり、スポーツの力でそういう人たちの頑張りを少しでもサポートできたらいいかなと思う」

 ――震災から10年の節目に東京五輪がある。
 「10年の節目で、自分の状態が凄く良い時に東京で五輪が開催されるというのは何かの縁があると思う。前回大会では本当にたくさんの方のことを裏切ってしまったし、迷惑を掛けてしまったので、その気持ちもしっかり自分と向き合って、責任感を持って取り組んでいきたい。そういう中でも支えてくれた方々への感謝の気持ちをしっかりと持って、自分が悔いなく戦うのもそうだし、元気や感動を与えられるような試合をして金メダルを取れたらいいなと思う」

 ――東京五輪を約4カ月後に控え、福島県の皆さんに伝えたいことは。
 「前回大会の時は本当に迷惑を掛けてしまった。そこを挽回できるように自分自身責任感を持って、2倍感動を与えられるように頑張りたいと思う」

 ――以前のインタビュー記事で、桃田選手は「自分が世界舞台で活躍したら、富岡の中学校や高校の名前が出て、震災の影響を受けた場所だとみんなに知ってもらうことができる」と言っていた。今もその思いは。
 「それはある。でも、富岡高校って出るんですかね?」

 ――在籍されていたというので…。
 「そうですね、自分が活躍することで出身校が出れば必然的に富岡町や福島県のことが出ると思う。だんだん年月がたつにつれて忘れていってしまう人たちがいると思うけど、絶対に風化させてはいけないことだと思う。みんなが常に考えてサポートし合わないといけないと思っているので、そういう意味でも自分が活躍することには意味があるんじゃないかと思っている」

 ――この後に控えている全英オープンで国際大会に復帰する。意気込みは。
 「正直、そんなに自信はない。やはり代表合宿とかもあまりできていないし、海外の人たちともまだ試合を全然できていないので、不安要素がすごく多い。自信を持って“勝ちます”とは言い切れないけど、凄く大きな大会だし、東京五輪に向けた本当に大事な一戦になってくると思うので、強い気持ちだけ持ってしっかりと戦っていきたい」

 ――具体的に確認したいプレーは。
 「いや、たぶん気持ちの面で凄く弱気になってしまうけど、そういう場面でも弱気なプレーをしないというか。強気で、常に自分が主導権を握れるような試合展開をできればいい」

 ◆桃田 賢斗(ももた・けんと)1994年(平6)9月1日生まれ、香川県三豊市出身の26歳。7歳で競技を始め、福島・富岡一中―富岡高(現ふたば未来学園中、高)から13年にNTT東日本入社。12年に世界ジュニア選手権優勝。18、19年世界選手権で日本勢初の2連覇。19年にワールドツアー11勝を挙げ、ギネス記録に認定。全日本総合選手権は3連覇中。東京五輪出場を確実にしている。1メートル75、72キロ。左利き。

 《昨年1月マレーシア以来の国際大会》桃田は今年1月にタイで国際大会復帰を飾るはずだったが、遠征出発時に成田空港で受けた新型コロナウイルスPCR検査で陽性反応。日本選手団の派遣自体が取りやめとなった。9日に開幕予定だったドイツ・オープンがコロナ禍で中止となったため、17日開幕の全英オープンが桃田にとって昨年1月12日のマレーシア・マスターズ決勝以来の国際試合となる。日本代表は6日に都内での強化合宿を打ち上げ、13日に英国に向けて出発する。

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2021年3月9日のニュース