内村航平、五輪連覇はライバルからの敬意とともに

[ 2020年5月18日 05:30 ]

ベルニャエフ(右)とともに笑顔を見せる内村
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 【忘れられない1ページ~取材ノートから~杉本亮輔記者】体操男子の内村航平(31=リンガーハット)は、27歳で迎えた16年リオデジャネイロ五輪で黄金の逆転劇を演じた。個人総合決勝、5種目終了時点で首位のオレグ・ベルニャエフ(当時22、ウクライナ)と0・901点差の大ピンチに陥ったが、最終種目の鉄棒で完璧な演技を披露して頂点へ。美しく五輪連覇を達成した後のメダリスト会見では、ライバルとの美しい友情シーンもあった。

 こちらの不安な胸の内を表しているような、雨模様の一日だった。16年8月10日、ブラジル・リオデジャネイロ。同5日の五輪開幕以降、現地は晴天が続いていたが、体操男子個人総合決勝のこの日、太陽は分厚い雲に隠されていた。

 当時、無敵進撃の真っただ中に内村はいた。リオ五輪を迎えるまで個人総合の連勝は「37」に。12年ロンドン五輪の金メダルに加え、世界選手権でも6連覇を達成していた。リオ開幕前、冗談めかして笑っていた。「最近じゃ、個人総合で勝ってもあんまり“おめでとう”って言われなくなりましたからね」。強すぎるゆえのエピソードだった。

 内村の戴冠を信じる一方、強力ライバルの存在が気がかりだった。6日の予選、鉄棒で落下した内村は6種目合計で90・498点に対し、ベルニャエフは91・964点。金メダルを獲得した8日の団体総合決勝で内村は好演技を披露したが、91・598点とまだベルニャエフのスコアに届かなかった。

 五輪連覇は容易ではない――。そんな思いを抱きながら、会場に向かった。

 頂上決戦は、互いにミスがないまま推移した。内村が1種目目の床運動でリードを奪えば、ベルニャエフは3種目目のつり輪で逆転。その時点で0・467点差だったベルニャエフと内村の差は、5種目終了で0・901点に広がっていた。

 好演技を重ねた末の銀メダルなら、どう書くべきか。「キングは、王座からの去り方も美しかった」。こんな原稿をイメージしている自分がいた。

 大歓声の中、最終種目の鉄棒が始まる。先に演技した内村は演技中に腰を痛めながら、着地まで完璧にまとめ、15・800点のハイスコアを叩き出した。「これで負けても悔いはない」と内村。死力を尽くし、ライバルの演技を待った。

 ベルニャエフが内村を超えるには、14・900点が必要だった。予選の鉄棒は15・133点。同じ演技ができれば金メダルという状況だったが、着地で両足が一歩前へ動いた。14・800点で、わずか0・099点及ばず。五輪の女神が選んだのは、内村だった。

 試合後の取材エリアで、内村はライバルを称えた。「次やったらオレグ(ベルニャエフ)には絶対に勝てないと思う」。ギリギリの勝利だったからこそ、その言葉には実感が込められていた。

 メダリスト会見では、海外メディアから内村にこんな質問が飛んだ。

 「審判からかなり好意的に見られていて、いい点が取れているのでは?」

 内村は「皆さん、どんな選手でも公平にジャッジしてもらっていると思っている」と淡々と答えたが、ベルニャエフは怒りの声を上げた。

 「審判も個人的なフィーリングは持っているだろうが、スコアを付けるということはフェアで神聖なもの。航平さんはいつも高い点数を取ってきた。今のは無駄な質問だ」

 黄金のキャリアに加え、ライバルからの敬意は、内村が真のキングであることを示していた。

 《ともに苦しみ、ともに復活の途上》内村とベルニャエフは、リオ五輪後は苦しい時間を過ごした。16年12月から体操界初のプロ選手として活動する内村は、17年世界選手権の予選で左足首を痛めて棄権し、個人総合の連覇が6でストップ。18年世界選手権は代表入りしたものの、右足首を痛めた影響で個人総合には出場できず。昨年は両肩痛に苦しみ、全日本選手権で予選落ちを喫し、世界選手権代表を逃した。

 ベルニャエフも肩などを痛めたこともあって世界選手権の個人総合は17年が8位、18年は14位に沈んだ。だが、昨年大会は銅メダルを獲得して復活ムード。内村も世界の表彰台にカムバックしたライバルを見て、「凄いなってうれしくなりましたよ」と話している。新型コロナウイルスの感染拡大で1年延期となった東京五輪で、リオの死闘の再現を期待しよう。

 ◆内村 航平(うちむら・こうへい)1989年(昭64)1月3日生まれ、長崎県出身の31歳。3歳で体操を始め、日体大2年時の08年北京で五輪に初出場し、団体総合、個人総合で銀メダルを獲得。09~16年に個人総合で世界大会8連覇を達成し、16年12月にプロに転向した。リンガーハット所属。1メートル63、52キロ。

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