危険なタックルに甘い判定…正しいレフェリングなければ未来は明るくない

[ 2019年9月26日 09:38 ]

21日のフィジー戦の前半、ヤト(中央)にタックルするオーストラリアのホッジ(右)。危険度の高い反則行為とされた
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 開幕から6日を消化したラグビーW杯だが、ここに来て危険なプレーに対する判定の甘さが問題視されている。21日のオーストラリア―フィジー戦では、オーストラリアのWTBホッジの危険なタックルにカードが出ず。出場国やメディアから批判が出たことを受け、国際統括団体ワールドラグビー(WR)は24日にレフェリーの判定について「基準が一貫していない」と異例の声明を発表した。しかし同日夜に行われたサモア―ロシア戦でも、危険なタックルに及んだサモア選手2人に対する処分はシンビン(10分間の一時的退場)止まり。異論が相次いでいる。

 ホッジに対しては試合後に裁定委員会に掛けることが決まり、25日に10月11日までの出場停止処分が下された。サモアの2選手も、26日以降に東京都内で裁定委員会が行われることが決まった。試合は映像で見ていたが、危険の度合いからして、何らかの追加処分が下されるのは確実のように感じた。

 このような追加の処分は、危険度や違反性に応じて判断されるべきだと思う。だが本来は、試合中に正当な処分が下されなければならない。例えば過去優勝2度のオーストラリアに対し、後半21分までリードしていたフィジー。ホッジが前半25分に及んだ危険なタックルにより、シンビン、あるいは退場となっていたら、試合結果も違っていたかもしれない。前半は接戦だったサモア―ロシア戦も、またしかり。誤審とも取られかねない判定が試合結果を左右するのは、競技や大会の価値を下げることにつながる。

 WRが危険なタックル撲滅に向け、真剣に取り組む姿勢の一端に触れたことがある。昨年のこと。WRのSNSを担当する部署が大会アピール動画を作成していたところ、上層部から作り直しの指令が下ったという。その理由は、危険と判断されかねないタックル映像が含まれていたから。実際の試合ではペナルティー判定されずとも、ラグビーを知らない一般人の目に触れるからこそ、少しでも危険と感じられるシーンは排除したい。組織委委員会で勤務するWRの職員は「かなり神経質になっている」と説明してくれた。

 そうした背景がありながら、今大会でも危険なタックルは発生し、正しいジャッジが下されなかった。レフェリーの出世を左右すると言われるWRやティア1国との関係性が、厳正な判定を鈍らせているのか。あるいはアシスタントレフェリー(AR)やTMO(ビデオ判定)の機能性に問題があるのか。いずれにしても、WRが目指すゲームの姿には至っていない。

 近年は王国ニュージーランドでさえ、子供たちにラグビーをさせたくないという親が増えているという。その理由は「危険だから」。数多くのスポーツの中の一競技であるラグビーにとって、最大の“品評会”でもあるW杯で正しいレフェリングが示されなければ、この先の未来は明るくない。(阿部 令)

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