寺田明日香 ラグビーでの“負け”を認め再び陸上競技に戻った“覚悟”

[ 2019年6月30日 08:45 ]

陸上日本選手権第3日 女子100メートル障害決勝、レースを終え木村(中央)らと握手を交わす寺田=右(撮影・会津 智海)
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 「潔くラグビーでの“負け”を認め、ラグビー選手を引退する」

 それは突然で、文字の通り、あまりに潔い引退声明だった。

 陸上から身を引き、出産などのブランクを経て7人制ラグビーに転向した寺田明日香(パソナグループ)が再び陸上への復帰を発表したのは昨年12月。16年12月、ラグビー担当として彼女がトライアウトを受けた時から取材を続けていた縁で、元日本代表WTBの吉田義人氏とともに「侍セブン」の立ち上げにも関わっていた寺田の夫、佐藤峻一さんから連絡をもらった。

 再転向を知らされた時、その事実よりも、冒頭のコメントが強く印象に残った。それは一種の驚きを含んでいたと思う。明るく気さくで、取材の中の会話でも冗談を一つ、二つは挟みながら、真摯に応じてくれる寺田の人柄に好感を持つ一方で、拭い切れないイメージがあったからだ。それは、元陸上選手としてのプライドの高さ、だったと思う。

 例えばトライアウトに合格した後、17年1月に女子7人制代表の合宿に練習生として参加した際の取材。リオデジャネイロ五輪の女子セブンズの試合をテレビ観戦した時のことを尋ねると、「日本の足の速い子でも外国人に追いつけなくて、悔しいと思った自分がいた」と言った。同年7月、東京五輪まで開幕3年の節目となるのを前に取材した時には、「“この子、速いって言ってたじゃん”とか言いながら見てましたね」。自分だったら、の思いの発露は、悪気がなくともどこか引っかかるものがあった。

 自分の競技や実績に誇りを持つことは、決して悪いことではない。かつては日本選手権の100メートル障害で3連覇した実力の持ち主。想像を絶する努力を積み重ねたことは間違いない。だからこその本音であり、何でもうがった見方をする私の深読みだとしても、元100メートル障害チャンピオンの誇りは、ラグビー選手となった寺田の心の大部分を支配していたと思う。だからこそ、素直に負けを認めた冒頭のコメントに驚いた。そして約2年間の短い競技生活だったとはいえ、一度は「金メダルを目指すチームの一員になれたらいい」とまで言ったラグビーから離れ、再び陸上に戻ったことへの覚悟の強さにおののいた。

 「東京五輪を一緒に見たいというコンセプト」でつくったという長女・果緒ちゃんは、この8月で5歳になる。残念ながら決勝では3着に敗れた6年ぶりの日本選手権だが、スタンドから母が懸命に走る姿を見た愛娘は、何を感じ取っただろうか。寺田はラグビーを始めたきっかけとして、「娘と一緒に五輪を見たい」という思いが、「自分が出ているのを見せたい」へ変化したことが、最大のモチベーションだと語っていた。二度目の陸上人生は、まだまだ発展途上のはず。

 ぜひ実現してほしい。(記者コラム・阿部 令)

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