【上水研一朗氏の目】“試合の緻密さ”が生んだ女子全選手メダルの快挙

[ 2018年9月27日 14:00 ]

女子78キロ超級決勝 キューバのイダリス・オルティス(下)を破り初優勝した朝比奈沙羅
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 朝比奈は払い巻き込みを見せ技にして、得意とする支え釣り込み足を有効に使った。技出しが早く、安定感は抜群だった。準優勝だった昨年から成長したのは、相手を観察して技を出せるようになったこと。余計なスタミナを使わずに体力を温存し、後半にラッシュを掛けることを可能にした。

 今後はもう少し圧力の掛け方も研究したい。例えば釣り手は高さを変えるなどの工夫がほしい。今回の優勝で、今後は良いところを持たせてくれず、圧力を掛けにくい選手も出てくる。その時にどう対応するか。海外勢も出そろうであろう来年の大会への課題にしてほしい。

 原沢はよくぞ立て直して銅メダルを獲得した。欲を言えばリネールが不在の今回は金メダルがほしかったが、自信に満ちあふれた絶好調時の状態にはないように見えた。小川は不運とは言え、あまりにもったいない敗戦だった。相手の肘を過度に引っ張るような動きが、審判に悪い印象を与えてしまった。今のルールは立ち技からの関節技に敏感になっており、次に生かしてほしいとしか言えない。

 9人全員がメダルを獲得した日本女子は、試合ぶりが緻密になってきたのが好調の要因だろう。特に女子の場合、外国勢は寝技をほとんどやってこない。増地監督はおそらく、監督就任前からその点に気づいていたのではないか。57キロ級の芳田や78キロ級の浜田が逆転勝利した試合があったのも、寝技の徹底があったから。体力の消耗を抑え、早めの決着で試合も楽になるなど、メリットは多い。結果が良すぎると課題が見えにくくなる場合があるので、来年以降に向けてもう一度地に足を付けて準備してほしい。

 今大会は審判に一貫性がなかったのが気になる点だ。序盤は指導が出るのが早かったが、男子90キロ、100キロ級が行われた第5、6日は非常に遅かった。技ありの基準も微妙になっており、例えば寝技から腹ばいに逃げても、それをひっくり返せば技として認められるシーンがあった。片襟ではただちに攻撃を仕掛けないと指導だが、その点も曖昧だった。来年には再びマイナーチェンジする可能性があるので、日本代表として傾向を精査し、大きな大会に臨む必要があるだろう。

 審判も人の子。軽量級から日本勢のメダルラッシュが続けば、どうしても後半戦になるにつれ、日本選手への目線は厳しくなる。公平に裁くのは当然だが、特に重量級の選手はその傾向も見越して、今後の対策に生かしてほしい。(東海大体育学部武道学科教授、男子柔道部監督)

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