海老沼“愛の結晶”2大会連続銅メダル 香菜夫人「金より立派な銅」

[ 2016年8月9日 05:30 ]

リオ五輪<柔道・男子66キロ級>銅メダルを披露する海老沼

リオデジャネイロ五輪第3日・柔道男子66キロ級 3位

(8月7日 カリオカアリーナ)
 柔道の男子66キロ級で海老沼匡(26=パーク24)が2大会連続の銅メダルを獲得した。準決勝で安バウル(22=韓国)に延長戦で敗れたが、3位決定戦でカナダ選手に一本勝ちした。10キロ近い減量などストイックな取り組みで金メダルを追い求めてきた4年間。14年に結婚した柔道元日本代表の香菜夫人(28)も「金メダルより立派」と称えるメダル獲得となった。

 減量が終盤に入ると空腹で夜が眠れなくなる。あめ玉を1つなめる。それで2時間眠れる。目が覚めるとまた1つ。そしてまた2時間眠る。刃を研ぐように体と神経を削りながら、海老沼はいつも試合に臨んできた。

 10キロ近い減量は60キロ台に入ると周りも声をかけにくくなる。香菜夫人も「末期になってくるとしゃべらない」というほど。学生時代はサウナで倒れて救急車で運ばれたこともあったが、兄でコーチでもある聖さん(32)は「繰り返しやっていると落ちにくくなってくる」のが減量の難しさだという。大会前、いつも神経をすり減らしてきた。

 安バウルとの準決勝の終盤、海老沼が主審に腹部を示して何事かをアピールした。本人は「全て言い訳になる」と口をつぐんだが、井上康生監督は「脇腹から足をつった状態になったと思う」と説明した。おそらく過酷な減量の影響だろう。鋭く削った鉛筆の芯ほどもろく、折れやすい。

 そのアクシデントから形勢は相手に傾いた。延長戦で指導を避けようと強引に放った一本背負いを返され、有効を取られて敗れた。「引いてしまって気持ちの部分で負けた。今回の五輪の中であの一戦は心残り。引いてはいけない戦いだった。人生の中で悔いが残る一戦だと思う」。3位決定戦を得意の背負い投げで一本勝ちしても自分を責めた。

 柔道に対して妥協を許さない姿勢は練習、減量、試合のどれも変わらない。初出場で銅メダルだった4年前も五輪を終えて実家に帰ると、居間にあった五輪の写真を見つけて母・道子さん(56)に言った。「いつまでもここに置かないで。次の目標があるんだから」

 あれから4年。14年12月には元日本代表で、高校時代から交際を続けてきた香菜さん(旧姓阿部)とゴールインした。東京・丸の内に白いリムジンを用意して「オレでよかったら」とプロポーズした。香菜さんが現役を退き、結婚を決めてからは弱音も漏らせるようになった。「柔道が大好きなら楽しんでやればいい」「一番いい柔道をする時は楽しそうにしてるじゃん」。そんな励ましをもらうことで畳に向かう活力が沸いた。

 支え続けてくれた妻に贈るメダルは金色ではなかった。「銅メダルですけど受け止めて欲しい。2人で一緒にやってきたのでメダルをかけてあげたい」。スタンドで全てを見届けてた香菜さんは涙を流しながら「金メダルより立派な銅メダルだよ」とねぎらった。どんななぐさめよりも、その優しい言葉が海老沼の傷ついた体を癒してくれるはずだ。

 ◆海老沼 匡(えびぬま・まさし)1990年(平2)2月15日、栃木県生まれの26歳。兄の影響で5歳で柔道を始め、東京・弦巻中3年で全国中学大会66キロ級で優勝。東北高から明大に進学し、4年時の11年世界選手権を初制覇。12年ロンドン五輪は銅メダルを獲得した。13、14年の世界選手権も制して世界選手権3連覇を達成。14年に元世界選手権代表の香菜夫人(旧姓阿部)と結婚した。1メートル70、66キロ。所属はパーク24。

 ▽海老沼のロンドン五輪 準決勝でシャフダトゥアシビリ(グルジア)に一本負けも、3位決定戦でザグロドニク(ポーランド)に延長戦の末に豪快な大腰で一本勝ちし、銅メダルを獲得。チョジュンホ(韓国)と対戦した準々決勝では前代未聞の旗判定やり直し。延長戦1分22秒に小内巻き込みで一度は主審が「有効」をコール。しかし、試合場を管理する3人のジュリー団は有効以下と判断し、キャンセルした。ところが、その後の判定は、有効を宣したはずの審判全員がチョジュンホの勝ちと判定。会場の大ブーイングで、再びジュリー団が判定を覆した。

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