波乱万丈の人生…優勝争いする平幕・貴ノ岩 恩返しの千秋楽へ

[ 2016年7月24日 10:40 ]

3敗を守り引き揚げる貴ノ岩

 24日に千秋楽を迎えた大相撲の名古屋場所で“ダークホース”として優勝争いに加わっている平幕力士がいる。東前頭10枚目の貴ノ岩(26=貴乃花部屋)。横綱大関陣との対戦は組まれていないが、14日目まで3敗を堅守。2敗の横綱・日馬富士を綱獲り大関の稀勢の里とともに1差で追いかけている。

 貴ノ岩の半生は波乱に満ちている。90年2月26日にモンゴル・ウランバートルで父・アディアさんと母・アルタンゲレルさんの第5子(兄3、姉1)としてこの世に生を受けた。少年時代から衛星放送で流れる日本の大相撲に関心を持ち、現在の師匠である横綱・貴乃花が土俵上で活躍する姿に瞳を輝かせていた。だが、8歳の頃。小学生の少年には受け入れがたい現実が待っていた。愛情たっぷりに育ててくれた母が心臓病で亡くなったのだ。享年46歳だった。

 男手一つで自らを育ててくれた父、いつも面倒を見てくれる兄姉のためにも、貴ノ岩は中学卒業後に日本で一旗揚げることを決断した。アマチュア相撲の名門・鳥取城北高の石浦外喜義監督がモンゴルで開催したオーディションを受け、見事に合格。海を渡り、相撲留学することが決まった。

 だが、来日からわずか3カ月後。さらなる厳しい現実が訪れた。自らの大相撲界での活躍を心から願っていた父が肝臓がんで急逝。享年64歳。貴ノ岩はそのとき、この世の非情さを知った。それと同時に残された家族のためにも日本で名を上げることを改めて誓った。

 高卒後の09年に憧れだった貴乃花部屋に入門。着実に力をつけて迎えた12年夏場所後に十両昇進を果たした。関取の座をつかんだ際にモンゴルに住む4人の兄姉に電話すると全員が泣いていた。新十両会見で貴ノ岩は「とにかく日本で強くなって家族に相撲を見せたかったし、師匠とおかみさんに恩返しがしたかった。この気持ちを忘れずに上を目指したい」とさらなる躍進を宣言した。

 14年初場所に新入幕を果たしてから約2年半が経過した今場所。3敗を守った14日目の取組後、貴ノ岩は優勝争いについて「顔じゃない(分不相応)」と淡々と答えたが、千秋楽の嘉風戦に向けては「気合を入れていきます」と表情を引き締めた。本当のお父さんお母さんのような存在と慕う師匠とおかみさん、母国で応援してくれる兄姉、そして天国の両親。自らを支えてくれた人々への恩返しの思いを持ち、いざ千秋楽の土俵へ。場所後の休みには兄姉が住むモンゴルへ帰国する予定だ。(鈴木 悟)

 ◆貴ノ岩義司(たかのいわ・よしもり=本名アディヤ・バーサンドルジ)1990年2月26日、モンゴル・ウランバートル生まれの26歳。相撲留学で来日した鳥取城北高時代は国体個人4位、世界ジュニア中量級で準優勝。高校卒業と同時に貴乃花部屋に入門し、09年初場所で初土俵。得意は右四つ、寄り、投げ。1メートル81、148キロ。血液型O。

続きを表示

2016年7月24日のニュース